第3話 「リバーウッドに到着」

メイとレイロフが洞窟を抜けるより、少し前のこと。

 

skyrimRP_3_32

「危ないところだったな」
「ジェイ・ザルゴはドラゴンを初めて見たよ!スカイリムでは珍しくもないのか?」
「いや…というか、危うく焼き猫にされかけたというのに元気だな、君は」

広場にいた誰よりも早く、2人はヘルゲン砦に逃げ込んでいた。
ナギもドラゴンをその目で見たことなど初めてだ。
驚きのあまり、黒き翼を持つドラゴンから目を離すことが出来ずにいたが、ジェイ・ザルゴの歓声が聞こえて我へと返った。
新しいおもちゃを見つけた子供のようにはしゃぎ、ドラゴンの目の前に躍り出る彼を咄嗟に突き飛ばした。
その直後、業火がジェイ・ザルゴが先ほどまでいた場所を焼き焦がした。

そして、ヘルゲン砦へと駆け込んだという次第だ。
途中で見失っていたメイのことも気になるが、探しに戻るだけの余裕などない。

 

skyrimRP_3_35

正直、咄嗟のこととは言えどうして自分が火傷を負うかもしれない危険を犯してまでこのカジートを庇ったのか、
ナギは自分でもわからない。
(見殺しにするべきだったのに)
そんな酷いことさえ考えてしまう。
ナギが持つ、このカジートのような「耳」のことについてまた言及されるのは非常に面倒臭いのだ。

 

skyrimRP_3_34

「ああ、そうだったな。君には命を救われたんだった。
ジェイ・ザルゴは礼を言うよ」
「いや…」

率直にそう言われると、悪い気はしないものの何だかこそばゆい。
ナギのように常に損得勘定をしながら生きている者にとっては尚のことだ。

 

skyrimRP_3_33

(しかし、まさかドラゴンとは…生きている内に見ることになるとは思わなかった。
生前の父が言っていたことは本当なのか…?)

ナギにとってドラゴンは、物心付いた時から馴染み深い存在だ。
とは言え、もちろん実物を見ることなど今日が初めてだ。

(ドラゴンがこのスカイリムに現れたということは…まさか、ドラゴンボーンとやらも?)
様々な疑問、思考がナギの脳内を駆け巡る。
しかし、今はここで熟考したところで何も得られない。

「とにかく、一刻も早くここを離れよう。このヘルゲン砦は地下洞窟へと続いている。
きっとどこかに抜け道があるだろう」
「わかった。先導してくれ、友よ」

(…いつから友達になったんだ?)
捻くれた言葉が浮かんだものの、わざわざ口に出してジェイ・ザルゴの不興を買う必要もない。
もしかしたら、脱出するまでに彼の協力が必要になるかもしれない。
ナギはそんなことを考えながら…あるいは自分に言い聞かせながら進み始める。

途中、砦内で待機中の帝国兵を発見した。
ナギもジェイ・ザルゴも逃げ出した囚人でもストームクローク兵でもないのだから、見つかっても問題はないのだが、
事情があってナギとしてはあまり帝国の人間とは関わりたくない。
ましてや、ドラゴン出現の現場に居合わせたとなれば、帝国の名において拘束されて延々と質問を受け続けることになりかねない。

「ジェイ・ザルゴ、なるべくなら砦にいる誰にも見つからないように移動したい。
君は隠密行動は得意か?」
「つまり、音を立てずに静かに移動するってことかな?
ジェイ・ザルゴは今まで行ったことがないが、やってみよう」

 

skyrimRP_3_36

一抹の不安を覚えたナギだったが、さすがはカジートと言うべきか、ジェイ・ザルゴは文字通り猫のような静かに付いて来た。
小さな隙間も、驚くべき柔軟性を発揮して身を捩りながら難なく抜けられた。
物音を立てずに移動することも、一見すると通れないような隙間を通り抜けることも、ナギは長年の訓練で身に着けた。
しかしこのカジートは、「今まで行ったことがない」と言いながらごく当たり前にやってのけたのだ。

(…なるほどな)
ジェイ・ザルゴを見ながら、ナギは内心でそう呟いた。
ここスカイリムにおいて、カジートはあまり好かれていない。
カジートと盗人が同一視されることさえ珍しくはないのだ。

ナギは今、その理由がわかった気がした。
盗賊になるために必要な技能を、生まれながらにして備えているのだ。
もちろんカジートにも個人差はあるだろう。
しかし、出発点という意味では盗賊を志す人間よりも有利な位置にいることは疑いようがない。

(…なのに、魔術師になると言うのか?)

 

skyrimRP_3_37

2人がヘルゲン砦の地下洞窟を抜けたのは、太陽が少しばかり西に傾きかけた頃だ。
時間にすると3時頃だろうか。

 

skyrimRP_3_38

skyrimRP_3_39

skyrimRP_3_40

「まだ夏だというのに、スカイリムは冷えるな」
「まぁ、この辺りは少々標高が高いからな。
でも、君が今から向かうウィンターホールドはここの非じゃないぐらいの極寒の地だぞ?」

改めてジェイ・ザルゴを眺めると、どう見ても長旅に適しているとは言えない身軽さだ。

「ところで君、そんな恰好で今まで旅をして来たのか?
というか、まさかその装備でウィンターホールドに向かう気か?」
いや、そもそも路銀はあるのか?」
「身軽に旅をしているから、何かあればすぐに逃げられるんだ。
それに、必要なものがあればその時に手に入れればいい」
「その時に…」

いったいどうやって?どんな手段で?
ふと浮かんだ疑問をナギは辛うじて飲み込んだ。
何だか尋ねるのが恐ろしく思えた。

 

skyrimRP_3_41

(確か、カジートは「所有」という概念が薄いと聞くが…)

まさか、ずっと無自覚に盗みを繰り返しながらここまでやって来たのではないか。
そんな想像をしてしまう。
何とか脳裏に浮かんだ想像を追い払い、ジェイ・ザルゴを振り返る。

 

skyrimRP_3_42

「この近くにリバーウッドという村がある。
まずはそこまで行こう」

 

skyrimRP_3_43

「わかった」

 

 

 

メイとレイロフが洞窟から出て来たのは、それから数時間後のことだ。
途中で帝国兵と交戦したり、あるいは物品を漁っている内にナギ達とかなり距離が開いていた。

skyrimRP_3_46

skyrimRP_3_47

skyrimRP_3_49

skyrimRP_3_50

skyrimRP_3_48

 

 

 

一方、メイとレイロフが洞窟を抜ける頃には、ナギとジェイ・ザルゴは既にリバーウッドに到着していた。

skyrimRP_3_44

「ここがリバーウッド唯一の宿屋だ」
「おお!久しぶりにこんな立派で建物で眠れるのか!」
ジェイ・ザルゴは嬉しいよ」
「…立派?」

リバーウッドは、山間にある小さな村だ。
必然的に宿屋の規模も慎ましく、居心地はともかく「立派」という表現は相応しくない。

しかし、ジェイザルゴは本気でそう言っているらしい。

 

skyrimRP_3_45

「エルスウェーアを出てから、壁どころか屋根があるところで眠ることもあまりなかったからね。
何日か前に立ち寄ったある村では、製材所の材木置き場に泊めて貰えたからまだ快適だったけれど、
屋根はあったものの明朝に横殴りの雨が降り出してずぶ濡れになってしまったよ」
「製材所の…材木置き場?」
「ああ。村に出たスキーヴァーを退治するのを条件に泊めてくれたよ。
しかも、退治したスキーヴァーは全て食料としてジェイ・ザルゴが貰うことも許してくれたんだ」
「……」
「お陰でその日は久々の食事に…ん?ナギ?」
「いや…何でもない。
まぁ、何だ…その、占いによると私は今日誰かに食事をご馳走すると幸運が訪れるらしい。
だから、今日は私の奢りだから好きなだけ好きなものを食べるといい」
「本当かい!?」

そんな会話を交わしながら宿屋へと入る。
ナギは自分の口から出た申し出に驚き、どうじに困惑した。

ジェイ・ザルゴがどんな苦難に満ちた旅をして来ようと、それは本人の選んだ道なのだから同情などしない。
実際、別にナギは彼に同情しているわけではない。

(まぁ…悪党がたまに善行らしきことに興じてみるのも悪くはない)
心の中でそう呟いた。

 

 

 

skyrimRP_3_52

skyrimRP_3_53

メイとレイロフがリバーウッドに到着した頃には、太陽は完全に西の地平線へと沈んでいた。
メイはレイロフについて行くので精一杯で、道中で狼などに遭遇した時は全て彼に任せっきりで来た。

 

skyrimRP_3_54

「……」
「着いたぞ。よく頑張ったな」
「ん…」

疲労困憊で口を聞くことさえままならないメイと違い、レイロフは彼女を労う余裕さえある。

 

skyrimRP_3_55

(…ま、やっぱり盗賊は戦士や暗殺者とは違うもんね)

いつになく弓を引くことが多い1日だったせいか、両腕が非常に重い。
あの時は帝国軍を1人でも多く殺したい一心で、後の疲労のことなど考えていなかったが、
今更になって後悔を覚える。

 

skyrimRP_3_56

レイロフに促され、川の畔で彼の姉妹のジャルデュルに引き合わせて貰った。
レイロフがジャルデュルに、ここに来るまでの簡単な経緯についての説明をし、
盗癖や盗賊ギルドのことは避けた上でメイのことを紹介する。
しかし目を開けていることさえ困難なほどに疲弊したメイには、その言葉の半分も入ってこない。

「悪いな、ジャルデュル。こいつはここに着くまでにすっかりくたびれちまったらしい」
「ええ、わかるわ。さぞや大変な1日だったでしょう?」
ジャルデュルがメイに顔を向け、労わるように言った。
どうやら彼女はメイのことを「災難に巻き込まれただけの少女」と思っているようだ。
実は死刑寸前の囚人、まして盗賊ギルドの関係者だとは夢にも思わない。

 

skyrimRP_3_57

「んんぅ…」
気遣わしげな目を向けて来るジャルデュルに、呻くように頷く。
既に瞼が重く、気を抜くと睡魔に捕らわれそうになる。
ぼんやり霞がかった思考の中でも、ジャルデュルは「いい人」という位置付けに分類した。

 

skyrimRP_3_58

ジャルデュルの息子…つまりレイロフの甥は、この年頃の少年らしく、しきりにレイロフの冒険譚を聞きたがっていた。

 

skyrimRP_3_59

しかし、レイロフにリバーウッドの入り口付近で帝国兵が来ないか見張っておくように頼まれると、素直にそれに従う。
そうこうしている内にジャルデュルの夫のホッドがやって来た。

 

skyrimRP_3_60

先ほどジャルデュルにした説明を、更に詳しく話し始める。
うつらうつらと船を漕ぎ始めるメイはほとんど聞いていなかったものの、ドラゴンの襲撃に備えて
リバーウッドの警備を強化する必要があり、首長に嘆願するためにホッドが明日ホワイトランに向かう…
という形で話が纏まったらしい。

 

skyrimRP_3_61

その後も、レイロフとホッドは積もる話がまだまだあるようだが、ジャルデュルがそれを遮った。

「今日のところはこれぐらいにしましょ。
レイロフのお友達、今日は大変な目にあって疲れているのよ。休ませてあげなくちゃ」
「ん、ぅ、う?」
自分に水を向けられたとわかり、メイは閉じかかっていた目を開けてジャルデュルを見遣る。
すると、ジャルデュルが簡素な鍵を渡して来た。

 

skyrimRP_3_62

「鍵?」
「そう、私達の家の鍵。いつでも好きな時に出入りしてくれていいわよ」
「鍵がなくても、あたしだったらロックピックで――…」
「助かるよジャルデュル!さぁ、お言葉に甘えさせて貰おう!」

余計なことを言いかけたメイを遮るレイロフ。
警告するように強めにその華奢な背を叩き、夫婦の家へと促す。

 

skyrimRP_3_64

軽い食事を摂り、湯を借りて簡単に身体を清めたメイは、すっかり疲労した身体を簡素な寝台へと横たえる。

(ちっちゃいおうちだなぁ。それに、おふとんも何だかごわごわ)
泊めて貰う立場である以上、贅沢は言えない。
故に、心の中だけに留めておく。

 

skyrimRP_3_63

やがて、睡魔が重く圧し掛かりメイの意識に絡み付いてくる。

明日にはリフテンに戻りたいなぁ。
皆に会いたいなぁ。
ブリニョルフ、あたしが遅いから心配してるかなぁ。
それに…

様々な考えが浮かんだが、すぐに何もかも眠りの淵へと沈んで行った。