第18話 「盗賊に必要な気質」

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「そう警戒するな…と言うほうが無理だろうな。
でもな、お前に危害を加えるつもりはないんだよ」
「……」

敵意がないことを示すため、両手を軽く持ち上げて何の武器も所持していないことを視覚的に伝える。
しかし視線の先にいる小娘は、手負いの獣のように敵意と警戒心を纏わせながら、もう既に背中が壁に当たっているにも関わらず更に後ずさろうとする。

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それでも、先ほど市場で薬売りをしていたブリニョルフから掠め取った金を返す気は皆無のようで、強情な目でブリニョルフを見返しながら自分の背に隠す。

「お前さんの腕に敬意を表して、その金はやる。俺からの小遣いだよ。
無駄遣いするんじゃないぞ、小娘」

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「最近、リフテンでは窃盗が頻発しているらしい。
しかも盗まれるのは、宝飾品の類よりも菓子を初めとした食べ物、あるいは衣類や毛布だ。
…随分と身の丈に合わない服を着ているようだが、それも盗品か?」

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ブリニョルフに問われ、小娘はますます不機嫌そうな表情を浮かべる。
ばつが悪そうにするでもなく、「だったら何?」とでも言いたげな反抗的な目を向けてくる。
ブリニョルフは口を端を釣り上げた。
こういう目をする奴は嫌いじゃない。窃盗に対して罪悪感がある者ならば、目を反らしたり俯いたりするものだが、こいつはどうやら違うらしい。

(思った通り、こいつは見所がありそうだな)

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対面したままでは却って警戒心を煽るかもしれない。
そう思い至ったブリニョルフは、ホンリッヒ湖のほうへと身体ごと向き直る。

もちろん小娘が逃げ出すということも考えられたが、その場合は深追いするつもりはない。
また別の機会に「口説く」つもりだ。

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「さっきも言ったが、俺は別にお前を罰しようってわけじゃない。
お前さんの盗みの腕に興味を持ち、俺達の仲間に引き入れたいと考えているんだ」
「なかま…?」
「そう。一緒に仲良く盗みを働く仲間さ」

この年端もいかぬ小娘は窃盗を繰り返すことでどうにか生き繋いでいるようだが、今日食べるものを得るために盗むというのは相当に消耗する。
やせ細った身体を見ても、満足に腹を満たせていないことは一目瞭然だ。
彼女に関する情報から鑑みても、頼るべき相手も帰る場所もないようだ。
今のはままではそう長くは持たないだろう。
いずれ無残に殺されて打ち捨てられるか、あるいは、薄汚れてはいるがなかなか綺麗な顔をしていることに目を付けた大人に利用されて使い捨てられるか。

ブリニョルフも、自分が悪党であることは自覚しているが、少なくともこの小娘を道具のように利用し一方的に搾取するつもりはない。
事前稼業ではないし、手厚く保護してやるわけではないが、小娘にとってもそう悪い話ではないだろう。

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「ああ、そうだ。お近付きの印に、これをやろう」

そう言いながら、ブリニョルフは自分の鞄を探る。

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取り出したのはスイートロールだ。
この小娘が目撃された付近では、焼き立てのスイートロールが消えるという事件が頻発している。
きっと好きなのだろうと目星を付けていたが、その読みは的中したらしい。
小娘はまだ警戒を解かないものの、物欲しそうな目をスイートロールへと向ける。
わかりやすい奴だ、と内心で苦笑した。

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「まぁ、取り合えず食え。
腹が減っているだろう?」

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「……」

差し出されたスイートロールを物欲しそうに眺めながらも、手を伸ばそうとはしない。
窃盗を繰り返す日々の中で、ブリニョルフのように窃盗を咎めるどころか食べ物を与える者を見たことがないのだろう。
そう簡単に警戒は解けない。

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やがて、拒絶するように小娘は視線を逸らした。

それも仕方ないか…と内心で呟いて肩を竦めると、ブリニョルフは数歩下がって小娘から距離を置く。
少し考える時間を与えてやるつもりだった。
そして、スイートロールを一旦鞄に戻して小娘に告げる。

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「俺はな、小娘、お前のその窃盗の技術に興味を持っているんだよ。
お前のその腕があれば、いつでも好きなだけスイートロールを食えるぐらい金持ちになるのもあっというまだろう
そして俺ならその手助けをしてやれると言っているんだ」

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「俺は朝の8時から夜の8時まで市場にいる。
興味があればいつでも訪ねて来い」

伝えるべきことは伝えたと、小娘に背を向けて歩き出す。
後は小娘次第だ。
今、ブリニョルフは小娘に対してまたとない好機を示している。
差し伸べた手を掴むか否かで、文字通りこの身寄りのない小娘の今後の人生は大きく変わる。
盗賊には警戒心は必要不可欠だが、しかし慎重になりすぎるあまり決断出来ないのでは話にならない。
実際、盗賊として優れた技量を持ちながら、好機を逃してばかりで実力を発揮出来ない者も多い。そしてそういった連中は決断力が欠けている。

(さて、こいつはどうかね)
ブリニョルフがそんなことを考えた時、背後から伸びた腕がブリニョルフの鞄から素早くスイートロールを取り出した。

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ヒョイッ
パクパク

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呆気に取られたブリニョルフが振り返ると、奪い取ったスイートロールに文字通り貪り食う小娘の姿が目に映った。

「よく噛んで食えよ、喉に詰まらせるぞ」
ブリニョルフが苦笑交じりに忠告する頃には、既にスイートロールはその薄い腹の中。
少しだけ人心地が付いた、しかしまだ満足とは言えない様子でブリニョルフへと向き直る。

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「もっと食べたい」
「すまんな、小娘。生憎とあれだけしか持ち合わせがないんだ」

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「じゃあ、もっと沢山のスイートロールが食べられる場所に連れてって。
あと、暖かい暖炉とふかふかのお布団も欲しい。
それに、ゆっくりお風呂も入りたい」

先ほどまで一言も発さなかったのが嘘のように、自分の希望を並べ立てる。
ブリニョルフは堪え切れずに声を上げて笑った。

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警戒心を解いたかと思えば、好き勝手な要求を並べ立ててくる。
豪胆なのか貪欲なのか、それともただ馬鹿なのか。
何にせよ、期待以上に興味深い逸材であることは間違いない。

一頻り笑った後、訝しむ小娘の頭を軽く撫でて笑ったことへの謝罪を口にする。
ともすれば笑いがまた込み上げてくるのを何とか抑えながら「そういえばまだ名前を聞いていなかったな」と言った。
小娘は、居心地悪そうに顔を顰めながら自分の名を告げる。
答えたくないというわけではないようだが、自分の名前を口にするその様子が、まるで馴染みのない地名を口にするかのように見えた。
ブリニョルフは、小娘がどういうわけか名を呼ばれることも名乗ることもあまりない環境で育ったのではないかと思った。
しかしそのことには触れず、小娘の名を反芻する。

どうにも違和感を禁じ得ない。
仰々しいその名前は、あまりにも小娘に似つかわしくない。

「…メイ」
「え?」
「メイ、ってのはどうだ?お前さんの愛称というか…
もし自分の名前にそこまで執着がないなら、これを機に改名するってのはどうだ?」
「いいよ」
仰々しい名前の中から、適当に音を拾って即興で付けただけの愛称。
にも関わらず、小娘は呆れるぐらいあっさり頷いた。

「あたし、今日からメイ?」
「ああ、お前さんさえ特に不満がないならな」
「じゃ、メイで。えーっと…」
「俺はブリニョルフだ、小娘」
「あたし、小娘じゃなくてメイだよ?」

こうして、小娘…メイはギルドの一員となった。

 

 

 

メイと出会った早くも6年の歳月が過ぎた。
最近は彼女もまだまだ未熟ながら一端の盗賊と呼べる程度にはなった。
メイの盗賊としての資質について、ブリニョルフは中の上ほどと評価している。
飛び抜けてはいないが、そう悪くもない。
正確には、腕自体はかなりいい。光るものをいくつも持っている。
しかし、どうにもそれを生かすだけの気質に欠ける。
「盗賊になる腕を持っていたとしても、それを活用するのはまた別の話だ」とはヴェケルの言葉だが、ブリニョルフも全面的に同意する。
例えば、足音を立てずに素早く移動することが出来て、身のこなしが軽く、どんな鍵も開錠するほど器用な手先を持った者がいたとしても、窃盗に嫌悪感を抱くなら盗賊には不向きだ。
メイは窃盗への罪悪感も嫌悪感も皆無だが、何と言うか…

「愛すべき馬鹿というか。ドジというか…結局のところ馬鹿なんだが」
気付けば、溜息と共に言葉に出していた。
それでも、突出した盗賊にはなれないまでも、メイには簡単な任務をこなしながら元気で過ごしてくれればいいとブリニョルフは思う。
いつまでも犬の相手になっているわけにもいかず、ブリニョルフはフラゴンへと戻った。

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先程、一度貯水池のほうへと戻ったメルセルが再びフラゴンにいた。
ヴェケルに何か用があり、そしてそれを終えて立ち去ろうとする彼に帰還を告げる。

「メルセル、今戻った。自分で言うのもなんだが、上手く事が進んだよ。
…ここから悪いほうに転ばないことを祈ることにしよう」
「そうか」

いつも通り、メルセルは短く答えるだけだ。
労いの言葉をかけることもないが、ブリニョルフにとってはもう慣れたもの。
この男は口先だけの耳当たりのいい言葉を他者にかけることはないが、その代わり誰よりも見事な働きをしていることを知っている。

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「そういえば、小娘はどこだ?まさかまだ寝ているんじゃないだろうな」
「そのことなんだがな、ブリニョルフ。
実はメイは今、ホワイトランにいる」

疑問に答えたのはデルビンだ。
彼の物言いに何か歯切れの悪いものを感じながら、ブリニョルフは「ホワイトランだって?」と聞き返した。

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「お前が留守の間、ホワイトランのバトルボーン家から緊急の要請が来た。
そこであいつとサファイアを向かわせたという次第だ」
「何だと?」

デルビンの代わりにメルセルが詳細について話した。
簡潔な説明だが、当然ながらブリニョルフはそれがどれほど重要な任務かすぐに理解する。
滅多に感情を揺らすことのない彼も、メイがその任務に当たっていることには驚きを隠せない。

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「メルセル…お前の采配はいつも正しい。
確かにお前は、俺には考えもしないようなことを思い付き、しかもそれが誤りだった試しはない。
しかし、さすがに…サファイアがついているとは言え、小娘を向かわせたのはいい考えとは思えない」
「お前は少々、あいつを過保護にしすぎる」
「そんなことは…いや、確かにそれもあるかもな。
それを抜きにしても、あいつは…なんというか、抜けているだろう」

メルセルの指摘に苦笑を浮かべながら言った。

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「確かにあいつは馬鹿な奴だが、筋は悪くない。
馬鹿なことを除けば、一端の盗賊と言える」
「いや、だからな、メルセル?
その馬鹿なことが問題なんだが…
サファイアがついているとは言え、どこまであいつの馬鹿さ加減をフォローし切れるだろうか?」
「しかも、あいつは馬鹿な上に傲慢な奴だ」
「ああ、俺もそう思うよ。少々、自分を過剰評価しているな」
「そんな奴でも、一歩間違えれば一生牢屋暮らしになりかねない任務なら普段よりマシな動きをするんじゃないか。
おそらく、ああいう奴は多少死にかけるぐらいが丁度いい」
「…なるほどな」
「それに、馬鹿な奴だが今のところ任務では失敗していない。
ついでに言うと、帝国に処刑されかけたり、ドラゴンに踏み潰されそうになりながらもしぶとく生き延びている辺り、悪運にも期待出来るだろう」

ブリニョルフは少し意外に思いながらメルセルを見遣る。
「何だ」と尋ねる彼に「いや」と曖昧に答える。

「お前が小娘をそこまでよく見ているのは正直意外だったよ。
それにしても…いや、ここは小娘とサファイアを信じよう」

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メルセルが去った後、ブリニョルフは何か引っかかるものを感じて自分の内面…記憶や思考を探り始める。
先ほどメイについての考えを語るメルセルの言葉に耳を傾けながら、ふと「何か」が脳裏を過ったのだ。
しかし、それが何なのかが思い出せない。

 

 

スカイリムには「世界のノド」と呼ばれる、タムリエルでも最も高い山が存在している。
イヴァルステッドは、その麓にある小さな村だ。
ホワイトランに行くには、これから山道を抜けなければならない。

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メイとサファイアは、この村で少しだけ休憩を取ることにした。
シャドルに借りた馬は頑強だが、さすがにずっと走りっぱなしというわけにもいかない。

「お尻痛くなっちゃった」
「ずっと走りっぱなしだったものね」
馬達に川で水を飲ませ、2人はパンとチーズだけの簡素な食事を口にした。
その時、メイが小さくくしゃみをした。
「大丈夫?まさか風邪?」
「んー、昨日まで何ともなかったんだけど…何だろう、何かむかつく」
「え?」
「どこかでバカバカ言われてる気がして」
「??」
何の根拠もないが、メイの第六感がそう告げていた。
しかしサファイアには何のことだかさっぱりわからない。

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チーズを頬張りながら、メイはデルビンから借りたホワイトランの見取り図を眺める。
お世辞にも行儀がいいとは言えないが、今は時間短縮のためにも止むを得ない。
この見取り図は、今までにホワイトランの中枢部に侵入したことのある盗賊達によって書き綴られたもので、ホワイトランの地下を流れる水路の図や、侵入経路に成り得る場所についての詳細が記されている。

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(絶対失くしちゃダメだよね)
さすがのメイも、この紙に記された情報の重みを実感する。
いわば、リフテンの盗賊ギルドに所属した者達の知識と経験の結晶と言えるだろう。
もしかしたらメイと顔馴染みの仲間の中にも、ここに自身の経験を書き記した者がいるかもしれない。そんな考えが脳裏を過ぎった。

ふと、見覚えのある字が目に入った。
その字は、短く簡潔に、ある侵入経路について記している。
どうやらホワイトランの城壁の外から地下水路に侵入するらしい。
異なる字で、一定条件を備えた者以外はその侵入経路は使うべきではないと書き足されている。何でも、その経路で溺れ死んだ者もいるのだとか。

(じょーけん…よし、あたしだったら大丈夫)
メイはその経路を第一候補として、頭の片隅に留めておいた。

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「私だったら、自分の手に余ると思ったらすぐ逃げるわ。
ギルドでの信頼はガタ落ちで、下手したらいられなくなるかもしれないけど、それでも帝国への背信行為で捕まるよりずっとマシだもの」

ふと、サファイアが独白のように呟いた。
メイの身を案じる気持ちから出た言葉だが、彼女は親しい間柄の者に対しても「いざという時はこうして」という自分の希望を押し付けはしない。
メイのことを好いてはいるが、それと同時に彼女は自分とは異なる価値観を持つ「他人」だということも常に念頭に置いている。
サファイアのそんな気持ちを感じ取りつつ、メイは「うん」とだけ言った。

「大丈夫だよ。あたし、死んでも絶対成功するもん」
「…そう。くれぐれも気を付けなさいよ」
「うん」

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もう一度同じことを言って、2頭の馬へと視線を向ける。
2頭ともすっかり元気を取り戻したようだ。

「じゃあ、そろそろ行こう」
メイは見取り図を背嚢の中へと戻すと、再び馬に乗った。