第19話 「はったり」

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日が傾く頃、ホワイトランに到着した。
メイとサファイアは馬屋に馬達を預け、ホワイトランの城門へと向かう。
先日、ドラゴンがヘルゲンを壊滅させた一件はまだ人々の記憶に新しく、衛兵はこの時勢に女2人だけで旅をするメイとサファイアを訝しんだ。
しかし、サファイアが衛兵と上手く交渉してくれたお陰で難なく城門を通して貰えた。

 

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メイ1人なら、衛兵に突っかかって事態をよりややこしくし、街に入れて貰えない結果になっていただろう。

メイは昨日あまり寝ていないこともあって疲れ果てていたが、一刻を争うこともあって、2人はそのままバトルボーン家と向かう。

 

 

 

 

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(大きいおうちだなぁ)

雲地区と呼ばれる、上流階級の者が住まう一角にバトルボーンの屋敷はあった。
立派な屋敷が立ち並ぶ雲地区の中でも一際目立つ屋敷は、内装も外観に劣らず豪奢で、バトルボーン家の名が持つ力をメイに実感させる。
応接室に案内されたメイとサファイアは、家長であるオルフリッド・バトルボーンを待つ。

 

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応接室に案内されたメイとサファイアは、家長であるオルフリッド・バトルボーンを待つ。
現在、外出中ということでそれなりに待たされるだろうと覚悟したが、思いの外早く2人の前に姿を現した。
デルビンから聞いた通り本当に一刻を争う事態のようで、急いで駆け付けた様子が見て取れる。

 

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上がった息を整えながら、デルビンが遣わせた使者2人を眺め、疑惑と困惑が入り混じった表情を浮かべる。

「あー…私が依頼主のオルフリッド・バトルボーンだ。デルビンが遣わせたのは君達2人だけだろうか?」

おそらく、デルビンには「ギルドで最も優秀な盗賊」を指定しただろう。
それが若い女2人とあって、すぐには信じ難い様子だ。
メイは疑わし気なその目を睨み返して突っかかりたい衝動を覚えたが、何とか抑え込んで「はい」とだけ答えた

 

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オルフリッドが部屋に入った時から立ち上がっていたサファイアは、彼に控えめな笑顔を向ける。
自分の美貌を印象付けると同時に、優秀な盗賊然とした余裕を感じさせる笑顔だとメイは思った。
ふと、自分も椅子から立ち上がるべきだろうかと思い、サファイアに倣う。

 

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「お初にお目にかかります、オルフリッド様。
私はサファイア、彼女はメイと申します。
他にも候補者はいたのですけれど、デルビンは私達を選びました。
これが何を意味するか、おわかり頂けるでしょう?」

 

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「うむ…うむ、そうだな。
あー…こんなに美しい女性がギルドの者だということに驚きを禁じ得なくてな。
これは失礼した、早速本題へと移ろう」

 

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「君達には、我が旧友であるアーンを救い出して欲しい。
彼は今、ドラゴンズリーチの地下牢に拘束されている」

「…なるほど。そしてそれは、単純に牢屋を破ればいいというわけではないということですね」

切実な願いを口にするオルフリッドに、サファイアもまた神妙な口調で頷いた。
メイは頭の中に無数の「?」を浮かべながらサファイアの横顔を見上げる。

 

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(脱獄させるんじゃないの?)
しかし、余計な口は挟まずに2人の会話に耳を傾ける。

 

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オルフリッドは訥々と事の子細について語り始める。
アーンがホワイトランで拘束されている理由は、酒場で酔って暴れたことが原因だと言う。
それだけなら数日服役すれば解放されるが、実はアーンはソリチュードで殺人罪を犯して逃亡中の身の上にあると説明した。
今はまだアーンの素性はホワイトランでは知られていないため、ただのはた迷惑な酔っ払いに過ぎないが、ソリチュードでの一件が伝わるとまずいことになる。

 

「…というわけだ。
そこで、君達にはアーンの手配書を盗み出した上で入所者名簿から彼の名を消して欲しい」

「事情はわかりました。…それで、手配書と入所者名簿が管理されている場所にも検討が付いているのですよね?」

「ああ。情報屋の話によると、他の要塞からの通達は特殊な経路で首長の部屋へ直接送られる。入所者名簿は執政の執務室で管理されている」

「いずれもドラゴンズリーチ内ですわね」

「いかにも。デルビンにも伝えた通り、事は一刻を争う。
出来れば今夜中…いや、今すぐにでも取り掛かって貰いたい」

「今からですって?」

「ああ、そうだ。君達が到着するまでの間、何とか首長と執政の気を他の事案に向けるよう立ち回った。
しかしソリチュードからの手配書は、おそらく君達の到着とほぼ同時期にドラゴンズリーチに届けられたようだ。
首長の目に止まるまでに何とかしなければならない!」

 

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切羽詰まった言葉を受け、サファイアは暫し沈黙する。
一瞬横目でメイを伺った。
昨日あまり寝ておらず、今日はずっと馬に揺られて移動してきた。
そんな状態で、ドラゴンズリーチへの侵入という任務に取り掛かるのはあまりに無謀に思える。

 

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「今すぐやります」
しかし、即答したのは他ならぬメイである。
彼女の言葉に、サファイアのみならずオルフリッドも驚きを隠せない。

「まさかとは思うが、君が潜入役…ということはないだろうな?」

 

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「あたしが実行して、サファイアが補佐ですよ。
だってあたし…えっと、ギルドマスターの右腕なんです。
ギルドで最年少だけど、凄腕ですもん。
今までも、ますた~が不在時には代役を務めることが何回もありました」

サファイアが小さく咳込む。
メイのはったりに、思わず妙な声が出そうになるのを必死に抑えたのだ。

 

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(確かにそういうはったりも時には有効だけど…さすがに話を盛りすぎじゃないの!?)
「そ、そうなのか…?
いや、しかし…
正直なところ私はギルドマスター自らか、せめて幹部クラスの者を寄越さないデルビンに腹を立てたが、そうか、やはりあの男の采配は正しかったということか…

…メイと言ったか。
君を信じて任せることにしよう。
アーンが無事に逃げ切れた暁には、バトルボーン家は君達のギルドを支援することを約束しよう」

「はい」
メイとサファイア、2人同時に返事をした。
サファイアとしては、メイに休息を取らせてから現場の下見を行い、もう一度入念に計画を見直した上で任務に取り掛かるつもりだった。
しかしここまで来れば後には引けない。

 

 

 

 

先ほど城門を潜ったばかりだというのに、この短時間で、しかもこんな日暮れに再び城壁の外に出るとなると目立ってしまう。
幸いなことにバトルボーン家の地下室には緊急時に備えた抜け道が設置されていて、そこから城壁の外へ出られるという。

 

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「くれぐれも気を付けなさいよ」
「うん」
いつになく険しい面持ちのサファイアと短い会話を交わす。

 

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既に潜入の準備は万端だ。
海獣の革で出来た潜水服に身を包み、長い髪は邪魔にならないようサファイアが綺麗に纏めてくれた。

 

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「…アーンとかいう奴はただの殺人犯じゃないわ。
殺した相手がその辺の労働者や酒場女だったら、バトルボーン家の金と権力に物を言わせて揉み消せるもの」

帝国の要人か、それともサルモールの高官か。
まさか皇帝の縁者だろうか。
とにかく、アーンが殺したのは相当の重要人物であることは疑いようもない。

「…あなたと一緒にいるところを既に見られている以上、風向きが少しでも怪しくなったら私はすぐ逃げるから」
淡々とした口調でサファイアは告げる。
メイがホワイトランの地下水路から侵入し、サファイアはオルフリッドと共に堂々とドラゴンズリーチ内に向かう手筈になっている。
内側からメイを補佐するのが彼女の役割で、可能な限りメイが動きやすいように立ち回りはするが、いざという時に助けには行けないとはっきり伝えたのだ。

メイとしてもそんなことは百も承知で、笑顔で頷く。

 

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「うん、サファイアはすぐに逃げて。
あたしのことは心配しないで。
捕まって拷問されても、絶対にサファイアやギルドに不利になることを話したりしないから」

「…くれぐれも気を付けなさいよ」

思わず先ほどと同じ言葉を繰り返した。

 

 

 

 

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抜け道を使い、無事にホワイトランの城壁の外に出ることが出来た。
見張りの衛兵が近くにいないか慎重に確認しながら進む。

 

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岩や草木の影に身を隠しながら、ふと、以前に読んだ本の内容を思い出した。
かの有名なバレンジア女王の綴った物語だ。

彼女は故あって身分を隠して逃亡している最中にホワイトランを訪れたことがあり、その際には浮遊魔法で城壁を越えて街に入ったという記述もあったが、果たして本当だろうか?
そんな疑問がメイの脳裏を掠めた。
少なくとも、今ならそんなことは不可能だろう。
すぐに見張りの衛兵に見つかってしまう。

バレンジア女王の若かりし頃のホワイトランの警備状態は最悪を極めていたか、あるいは物語上の都合でそのような描写になったか。
メイには知る由もない。

 

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すぐに気持ちを切り替えて目の前のことに集中する。
警戒すべきは、衛兵よりも夜行性の獣や山賊だ。

 

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(よし…大丈夫みたい)

 

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城壁からそれなりに離れた場所まで来た。
その時、ふと小さな水音が聞こえた。
月の明かりを頼りに周囲を見遣ると、ほんの水溜りのような小さな川を見つけることが出来た。
例の地図に描かれていたのと同じ地形だ。

 

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水は小柄な者1人がやっと通れるぐらいの穴から噴出している。
よく見れば、近くの岩にギルド員が残したと思われるシャドウマークが刻まれている。

「危険」を意味する印だ。
しかし、危険を覚悟して進むのなら有効な侵入経路となり得る。

 

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「間違いない、ここだね」

 

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メイは小さな薬瓶を取り出した。
トニリアがこの任務のために持たせてくれたもので、中身は水中での呼吸を可能にする薬だ。

 

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(これもギルドのお金で用意したんだよね)

この小瓶に入った薬に相当な値が付くことは、メイでもわかる。
そしてこの任務の成否には、それだけの価値がある。

 

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(絶対に成功させるもんね)
改めてそう決意し、薬を飲み干した。

そして、小さな穴を潜って冷たい水の中へと身体を沈めていく。

 

 

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