第21話 「任務を終えて」

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心臓が止まるかと思うほど驚いた。
辛うじて声を上げることは抑えたが、しかし混乱して頭の中が真っ白だ。

 

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部屋に入って来たのは10になるかならないかの少年だ。
一目で上質とわかる衣服を身に着けた彼もまた、メイを見て驚いた顔をしている。
この部屋に出入り出来るということは、首長の息子だろうか。
だとすると、父親の部屋に見慣れない下着姿の女がいるというこの状況を果たしてどのように受け止めるか。
メイはどうしていいかわからず、へらへらと頭の悪そうな笑顔を少年に向けて首を傾げる。

 

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少年は暫く怪訝な顔をメイに向けていたが、やがて得心したかのように目を細めて言った。
「はっはーん…なるほど、ね。そういうことか」
と、「合点がいったぞ」という様子で頷いている。

 

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メイには何が「そういうこと」なのかわからないが、もしかしたら上手く切り抜けられるのではと期待しながら続く言葉を待つ。

 

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「やれやれ、あの人もお盛んなことだね。
まだ宵の口だっていうのにさ。
それにしても、随分と若いね?
まだ殆ど子供じゃないか。
こんなのにまで手を付けるようななったとはねぇ。
偉大なるバルグルーフだって?
ははは、聞いて呆れるよ」

どうやらこの少年、メイのことをバルグルーフ首長の愛妾か何かと勘違いしたらしい。
(自分のほうが子供じゃん)
そんなことを思ったが、口には出さない。

それにしても、妙に大人びた…というよりも、無理矢理背伸びしているような口振りだ。
その皮肉めいた物言いからも、父親に対する反感が伺える。
父親に反抗したい年頃だからか、あるいは他に理由があるのかメイにはわからない。

 

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「この調子だと、僕に弟か妹が生まれる日も近いね。
はっ、僕と同じ妾腹の子ってわけだ」

言うだけ言って少年は部屋を後にした。

 

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最後の言葉で、彼が父親に対して抱いている憤りの理由がわかった気がした。

一角の人物として人々から尊敬を集めるバルグルーフ首長も、所詮は生身の人間。
やはり人に言えない秘密の1つや2つは抱えているということか。
自分には関わりのないことだというのに、何だか腹が立ってきた。

 

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(ってことは、あの男の子は正妻以外の女に手を付けて孕ませた不義の子ってこと?
性欲に負けて不幸な子供を作っておいて、それで立派な人みたいに振る舞ってるの?
うっわ、あたしの一番嫌いなタイプ!!)

ホワイトランを統治する首長について、これまでメイは特に何の興味もなかった。
彼の父親としての姿を垣間見たことで、一方的かつ勝手に「最悪な偽善者」と位置付けた。

しかし、メイには他所の家庭の事情よりここから脱出することのほうが大事だ。
先ほどと同じく部屋に施錠し、慎重に、それでいて可能な限り迅速にその場から離れる。
少年がメイのことを誰かに話したら、それが愛妾などではなく招かれざる侵入者だと気付かれる危険性がある。
とは言え、この格好ではあまりに目立ちすぎる。

 

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この時、既に身体は疲労困憊で悲鳴を上げていた。
首長の部屋に敷いた毛足の長い絨毯の上に寝そべりたい誘惑を何とか退け、部屋を後にしたメイは召使いの衣装を盗み出した。
それを手早く身に着け、使用人や出入り業者専用の裏口からドラゴンズリーチの外へと出た。

 

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(…よし。上手く外に出られた)

後はこのままバトルボーン家へと戻るだけだ。
傍目から見て不自然に見えないように留意しながら、白い花が咲く庭を通り抜ける。

 

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庭を抜けたところで、小さく名前を呼ばれた。

 

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正門から出てきたばかりらしいサファイアが手を振っている。
メイは身振りで彼女に任務に成功したことを伝える。

盗み出した手紙を持っていることを改めて確認して、2人はバトルボーンへと戻った。

 

 

 

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メイたちがバトルボーン家に着いてから程なくしてオルフリッドが帰宅した。
盗み出した手紙を見せると、彼は薄ら笑いを浮かべて言った。
「アーンだと?そんな奴は知らんな」

アーンには新しい身分を用意したため、今はもうアーンではない。
ドラゴンズリーチの牢獄にいる男は最早、酒場で暴れたはた迷惑な酔っ払いに過ぎない。程なく解放されると言う。
詰まるところ、メイは任務を完遂させたのだ。

 

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「よくやってくれた!
なるほど、まだほんの少女だが、さすがはギルドマスターの片腕というだけのことはある」
「え?あ、ハイ」

(この子、はったりかましておいてもう自分が言ったこと忘れてるのかしら…)

オルフリッドは上機嫌な様子で、夜が明け次第早馬でデルビンにこのことを報告すると告げた。
そして、今後はバトルボーン家で盗賊ギルドの支援者になってくれると約束した。
サファイアは「やったわね!」と言ってメイの肩を叩いたが、当のメイはと言うと緊張が解けると同時に一気に疲労感や睡魔が襲ってきて、既に意識が朦朧としていた。
せっかくの任務成功をあまり喜べないのも、おそらく霞がかった頭では実感出来ないからだろう。
そうに違いない、とメイは無理矢理自分を納得させた。
サファイアに促され、オルフリッドが用意してくれた客室へと移動する。

 

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「ね、眠ひ……」

ブクブクブクブク。

 

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「ちょっと!?溺れるわよ!?」

 

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湯あみを済ませて軽い食事を腹に入れた後、すぐに寝台に身体を投げ出した。

メイは先ほどから、朦朧とした意識の奥深くに何か小さな引っ掛かりを感じてもいた。
何か腑に落ちないような、かと言ってそれが何に対してなのか自分でもよくわからない何とも名状し難い感情だ。
目を凝らして「それ」の正体を見極めようにも、心身ともに疲労の頂点に達していて思考がぼんやりと霞がかっている。

そんな思考に、サファイアの言葉が覆い被さる。

 

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「今日は本当に頑張ったわね。
正直なところ不安もあったけど、あなたは立派にやり遂げたわ」
「んぅー」
「これでギルドは、バトルボーン家という強力な味方を得てホワイトランという一大要所に足場を築いたことになるわ。
きっとバイパーやニルインも、ギルドに留まる意思を固めるんじゃないかしら?」
「ん…?」

サファイアは「私はどうでもいいけどね」と付け加える。
動きの鈍い頭で、どうしてここで2人の名前が出てくるのかを考え、そういえば先日2人がヴァレンウッドの盗賊ギルドに移るのはどうかと話し合っていたことを思い出す。
メイはそんな2人に対してここにいて欲しいという意思を示したのだ。

つい数日前のことなのに、どうしてこんなに遠い昔のように感じるのだろう。

(他のところに行きたいなら、さっさと行っちゃえばいいんじゃないかなぁ)

ふと、そんな薄情な思考が浮かび上がる。
メイは、ギルドを離れたいと思う者を引き留める気持ちがいつのまにか完全になくなっている自分に気付いた。

 

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(あれ?なんでだろ…)

 

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明確な答えを見つけられないまま、メイの意識は眠りへと沈んで行く。
メイを気遣って、サファイアもそこで会話を打ち切った。

その夜は夢も見ずに深い眠りを甘受したが、明け方近くになってメイは今より幼い頃の夢を見ていた。

 

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