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第6話 「ギルドに帰還 後編」

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徒歩と呼べるまでに速度を落とし、執務机の前を通り過ぎる。

(今日はいるみたい)
執務机に向かうギルドマスターを横目で見遣り、内心で呟く。

 

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(話しかけたらやっぱり邪魔かなぁ)

緩慢な歩みで、そちらを気にしながら通り過ぎていく。

 

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しかし、当然ながらメルセルはメイになど一瞥もしようとしない。

 

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「…むぅ」

きっとこのまま早々に立ち去るのが最も賢明なのだろう。
メルセルはメイの帰還など気にかけないし、仮にヘルゲンで命を落としていたとしても何とも思わないのだろう。

 

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(…ただの下っ端だから、使える奴じゃないから、死んでも惜しくないです?)

メルセルから距離を置き、灯りが生み出す影に身を隠しながら、気配を殺して彼の様子を伺う。
そのままの状態で暫く観察したが、どうやら気付かれていないようだ。
あるいは、気付いていながら無視を決め込んでいるか。

 

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(ホントに気付いてない?それとも無視してるだけ?)

もし気付かれていないのだとしたら、気付かれることのないままどこまで近付けるだろうか。
メイはふとそんなことを思った。
気配を殺し、足音立てぬよう注意しながら少しずつ距離を詰める。

 

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執務机のすぐ近くに、宝物庫への入り口がある。
入り口は執務机のある位置よりも窪んだ場所にあり、身を隠すのに丁度いい角になっている。
メイはその角まで歩み寄ることに成功した。

ここからだと距離が近過ぎて顔を出すとすぐに気付かれてしまうだろう。
角に身を隠しつつ聞き耳を立てると、ページを捲る音や身動きする際に生じる小さな物音が聞こえた。

こちらを伺っている風はない。

(ってことは、まだ気付いてないよね?)
一瞬の逡巡の後、メイは可能な限り気配を殺しつつ、緩慢な動作で角から出た。

 

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その瞬間。

「大事な用だろうな?こっちは忙しいんだ」
「ほわ!?」

いつも通りの不機嫌な声が飛んで来た。
メイは心臓が止まりそうなぐらい驚いた。

「さっきから何をしている?」
「ますた~、気付いてたんですね…」

 

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「あの、えっと、えっと、大事な用です大事な用です」
「ほう。なら早く言え」
「えーっと…」

咄嗟にそう言ったものの、特にこれといった用などない。
答えに窮するメイ。
ふと、ドラゴンに遭遇したことが脳裏を過ぎった。
そうだ、あれはスカイリムを震撼させる一大事ではないか。

 

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「ますたー、ヘルゲンにドラゴンが現れましたよ」
「そうらしいな」
「そです、そです…って、もう知ってたんです?」

拍子抜けして、思わず肩を落としてしまう。
盗賊ギルドはスカイリムの各地に広い情報網を行き渡らせている。

その情報網は、僻地の細部の情報まで拾ってくるほどなのだから、シロディールとの国境の街にドラゴン出現という
大事件を逸早く知ることぐらい簡単なことなのだろう。

 

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「まさか、大事な用とやらがそれだけ…ということはないだろうな?」
「ごめんなさい、それだけですぅ…じゃあ、あたしはこれで」

「待て」
そそくさと逃げるように立ち去ろうとしたメイを、意外にもメルセルが呼び止めた。
メイは我が耳を疑い、周囲を見回す。
しかし、自分達の他には近くに誰もおらず、どうやら本当にメイに対しての言葉らしい。

「は、はい。何でしょうますたー?」
「何故お前がそのことを知っている?まさかその場にいたのか?」
「ええ、いましたよ。ドラゴンがいきなり現れて…
あたし、ヘルゲンの砦に逃げ込んでそこから地下洞窟を通って外に逃げたんです」

メルセルのほうからメイに質問するなど珍しい…というよりこれが初めてだ。
メイは驚きつつも、流暢に答える。

「お前以外に逃げた奴はいないのか?」
「レイロフ…ストームクローク軍の人があたしと一緒でした」
「そんな奴の安否などどうでもいい。
…まさか、逃げるだけで精一杯で周囲のことを全く把握していなかったのか?」

メルセルが常以上に苛立った様子を見せる。
聞かれたことに答えてこれだ…と、かちんときたメイは、反抗的に言い返す。

「あたし以外に逃げた奴って…ぶっちゃけ、誰のことそーてーしてるんです?」
「もういい。行け」
突き放すようなメルセルの言葉に「面白くない」という思いはますます募る。
聞かれてもいないのに、捲くし立て始める。

「あたしだって大変だったんですよ、ますたー。
だって、帝国軍にしょけーされかけたんだから。
っていうか、ドラゴンがあの時現れてなかったら今頃死んでました」

そこまで言ってから、しまった、と思う。
帝国軍に処刑されかけたことは、絶対にギルドの仲間に知られなくない。
先ほどそう強く思ったばかりなのに、自ら口を滑らせてしまった。
しかも、ギルドの中で一番知られたくない相手に。

 

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(…あ。もしかして自分で墓穴掘った?)

「…ほう。
ペイル地方に行った筈のお前が何故ヘルゲンにいたのか疑問だったが…」
「えーっと…」

さっきまでの反抗的な態度はどこへやら。
蛇に睨まれた蛙のように固まり、おどおどと視線を落とす。
何とか上手く返して言い逃れたいと思うのだが、思考は空回りするばかりで言葉が纏まらない。

メイの動向について知っていたことを意外に思ったが、下っ端とは言えギルドの構成員だ。
その行き先や依頼内容など、構成員の動向全てをギルドマスターなら全て把握していてもおかしくない。

「帝国に処刑されるようなヘマでもしたのか?」
「違います!あたし、ヘマなんかしてません。
その、あたしはただ、間が悪かったっていうか…
たまたま反乱軍の野営地にいたんですけど、帝国軍があたしのことあの人達の仲間だって勘違いして」
「反乱軍の野営地で何をしていた?
盗賊を辞めて、ストームクローク軍にでも志願するつもりか?」
「ち、違います…」
「最初の質問にも答えろ」
「…馬を盗もうとしただけです」

殴られた犬のように項垂れながら答えた。
隠し通したかったことを次々に暴かれ、この上なく惨めな気分だ。
しかも墓穴を掘っているのは他ならぬメイ自身である。

視線を落としていても、メルセルの人を見下しきった視線が鋭く突き刺さるのを感じる。

「つまりお前は、馬を盗む目的で間の悪い場所に居合わせて
それで危うく処刑されかけたといことか。
お前のことだ、おそらく馬車に乗る金をケチッて道に迷ったんだろう。違うか?」
「う…そのとーりです、ハイ」

「もういい…さっさと行け」
「…はい、ますたー」
さっきも同じことを言われた気がするのは、おそらく気のせいではない。
ただ、一度目よりも侮蔑の色が強くなっている。

ああ、最初にそう言われた時に大人しく引き下がっていればよかった。
そう思ってももはや後の祭りだ。

 

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その場をよろよろと離れると、呆れ顔のスリンと出くわした。

「スリン~…」
「ったくよぉ。
何やってんだよ、お前は」
「スリン、見てたの?」
「あんだけ派手に言い合ってりゃ、嫌でも注目の的にならぁな」
「うそっ!?そんなに目立ってた?」

居た堪れなくなり、小走りになって貯水池を後にする。

 

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貯水池とラグド・フラゴンの間に、小さな部屋がある。
ほんの僅かな収納場所と簡素な寝台のみ置かれたこの場所で、メイは寝起きしている。
リフテンの他の場所にもメイがよく立ち入る場所もあるのだが、ここがメイにとって拠点と言える場所だ。

ヘルゲンの砦で見つけた間に合わせの服から着慣れた服へと着替える。

 

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「うう。やっとギルドのお仕事任せて貰えるようになったのに…」

思わず泣き言が零れる。
それが、いきなり処刑されかけるという失態。
しかもギルドから任された仕事で失敗して捕まったわけではないというのが、却って情けない話である。
その上、わざわざ自分から墓穴を掘ってギルドマスターに暴露してしまった。

 

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「…メルメル、あたしにがっかりしちゃったかなぁ」

靴を履きながら、嘆息と共にそう呟いた。

 

 

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「ただいまぁ~」
「おお、戻ったか」

リフテンの地下に存在する酒場「ラグド・フラゴン」は、今日も今日とて閑散としている。
もっと昔…それこそメイが生まれてくる前は、盗賊ギルドのメンバーでいつも盛況していたらしい。

 

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「どうした、小娘?
随分と元気がないじゃないか」
「うーん、ちょっとね」

いつもなら、ブリニョルフの顔を見るとそれだけで元気が出るものだが、今回は自分の愚かさ加減を痛感した直後とあってかなり落ち込んでいる。
メルセルにしたばかりの話を今すぐブリニョルフ達にも話して聞かせる気にはなれないが、どちらにせよ遠からず彼らの耳にも伝わるだろう。
事情はまだ知らないものの、メイの様子からその辺りを感じ取ったのか、ブリニョルフはそれ以上追及しない。

「なーに辛気臭い顔してるんだい。仕事は上手くいったそうじゃないか」

 

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ヴェックスがメイにそう声をかけてきた。

「あ、ヴェックス。
凄いね、もうヴェックスに伝わってたんだ?」
先日、ヴェックスから引き受けたのは、盗品をペイル地方のとある住人の家に置いてくるという内容だ。

頃合を見計らい、ギルドの協力者が盗品について密告し、対象に選ばれた不運な相手に濡れ衣を着せるのが今回のメイの仕事だった。
メイがその仕事をやり遂げたという報告は、帝国軍に捕まったりドラゴンから逃げ惑っている間にヴェックスに伝わっていたようだ。

 

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「ああ、何の文句もないね。
ほらよ、これが報酬だよ」
「わーい。ありがとうヴェックス!」

サファイアから貰った積荷の代金に加え、今回の依頼の報酬とで、それなりに財布が膨らんだ。
財布が重くなると、それに反して気分は軽やかになる。

 

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「お前も着実に成果を上げているな、小娘。
まぁ座れ。夕食はまだだろ?
ヴェケル、こいつに何か作ってやってくれ」

ブリニョルフに促され、嬉々として着席する。
彼はどうやら夕食を奢ってくれるらしい。
落ち込んでいる様子を感じ取り、未熟な下っ端を気遣ってくれたのだろう。

(ホント、ブリニョルフはメルメルとは大違い)
「うん、リバーウッドを出てから何も食べてないからおなかぺこぺこ~」

 

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「…リバーウッドだって?
小娘、お前はペイル地方に向かったんじゃなかったのか?」

しまった!
またしてもうっかり口を滑らせてしまうメイ。
動揺し、視線は落ち着きなく宙を漂う。
もちろんブリニョルフがその変化に気付かないわけがない。

「あーうん、まぁね。ちょっとね」
「詳しいことはわからないが、何やら面白い話が聞けそうだな。
今日はおれのおごりだ、沢山食え。
代わりと言っちゃなんだが、お前のその体験談を聞かせて貰おうか」
「あうあうあうあうあう…」

「ふぅん?その話、あたしも聞きたいね」
「ペイル地方からリバーウッド経由で帰還とは、また随分と遠回りだな」

ヴェックスとデルビンまで会話に加わってくる。
いや、彼らだけではない。
メイの分の食事の準備に取り掛かっているヴェケル、トニリアやディルジも興味深そうにこちらを伺っている。

(…どーせすぐバレちゃうんだもんね)
メイは半ば居直って、先ほどメルセルにした話を再び語り始めた。

 

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「お前は相変わらず馬鹿な奴だが、不思議と妙に悪運の強い奴だな小娘よ」
メイの話を聞き終えたブリニョルフは、開口一番にそう言った。
彼の顔には、呆れや蔑みとも違う、穏やかとさえ言える表情が浮かんでいる。

「まぁ、盗賊にはもしかしたら一番重要な資質かもしれんな」
苦々しい表情を浮かべたデルビンがそう言った。
メイがさり気なく周囲を伺うと、ヴェックスとディルジは呆れ顔、ヴェケルは苦笑を浮かべている。
トニリアは普段通りの冷静な面持ちだが、それでも興味津々な様子でこちらを見ている。

「盗賊としての腕も決して悪くないのになぁ。色々と惜しい奴だよ、お前は」
「せっかくいい腕持ってるってのに、あんたはつまんないもん盗んでボロを出すんだ」
「ああ、この前もスイートロールを盗む現場を衛兵に見つかってたよな」
「彼女は常習犯ですからね。さすがに毎回毎回ものがなくなれば、誰だって警戒しますよ」

「ううう」
メルセルから詰問を受けていた時以上に深く項垂れるメイ。
項垂れながらも食事をする手は止めない。
ヴェケルが作ってくれたクラムチャウダー美味しい。貝じゃなくて白身のお魚使ってる。もぐもぐ。
ジャガイモパンともよく合う。むしゃむしゃ。

「まぁ、あんまり苛めてやるな。
おそらくもう既にメルセルにこっぴどく絞られただろうしな」
まるでその現場を見ていたかのような物言いで、ブリニョルフが助け舟を出してくれる。
もっとも、最初のきっかけを作ったのは他ならぬ彼なのだが。

「そういえば小娘、ヘルゲンでナギを見なかったか?」
「ナギ?」
食事が終わる頃、ブリニョルフがそう尋ねてきた。
彼の口から出たその名前に、僅かに眉を顰める。

ナギは数年前にこのギルドに加わった少女で、メイとはギルド内で最も年齢が近い。
と同時に、ギルド内でも屈指の腕を持つ盗賊だ。
さすがはギルドマスター自ら連れて来ただけのことはある、と評したのは誰だっただろうか。

ギルドに来た当初のナギは、今のメイと同じ年だったにも関わらず加入直後から重要な任務を任されていた。
それに比べると、メイはやっとギルドの仕事を任せて貰えるようにはなったものの、
まだ簡単かつ比較的安全なものしか任されたことはない。

メイはナギのことが嫌いなわけではないが、嫉妬と羨望の入り混じった複雑な感情を抱かずにはいられない。

「あたし知らない。
っていうか、ヘルゲンに着くなりいきなり処刑が始まって、そんでいきなりドラゴンが出て来たから、
もしその時ヘルゲンにいても気付かなかったと思う」
「そうか…」
「ナギがどーしたの?」
「いや、な。ヘルゲンに行ったきり、戻って来ないんだよ」

反乱軍の首謀者の処刑という一大事のため、ヘルゲンが一次封鎖されていたということはブリニョルフも既に知っている。
同じ時にヘルゲンにいた筈のナギが足止めを食らっていたとしてもおかしくはない。
しかし、ドラゴンの襲撃という誰も予期せぬ事態によって状況は一変した。

「命からがら逃げて来たお前は今、こうしてフラゴンにいる。
となると…」
言いかけて、ブリニョルフは首を横に振った。
悪い想像を振り払い、椅子から立ち上がる。

 

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「メルセルと”例の件”について話して来る。
あの小娘が戻って来てから進めるつもりだったが、そうも言ってられないしな」
「”例の件”ってなーに?あたしもそのお話に参加したいなぁ」

ヴェケルに「ご馳走様」と告げ、使い終わった食器を洗い場へと運んだメイは、ブリニョルフに駆け寄り彼の腕にぶら下がった。

 

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「いや、今回はダメだ」
「えー」

あっさり棄却され、不満げに頬を膨らませる。

「これはまだ計画の途中段階なんだよ、小娘。
もう少し情報を集めた上で計画を練る必要がある。
まだ暫く待て。俺達が次にするべきことが決まれば、お前に任せる仕事も出てくるだろう」
「ホント?」

 

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「ああ。だから今日のところは適当に休め。
それに、別件だがお前に任せたいことがあるんだ。
明日の朝にでもまた話そう」
「うん、わかった。あたし頑張るねー」
「張り切るのはいいが、もう処刑なんかされかけるんじゃないぞ。小娘よ」
「えっ。だ、大丈夫だよ。そんなことにならないもんねっ」

そんなことを言い合っている間も、メイはブリニョルフの腕にしがみ付いたままだ。
ブリニョルフのほうももう慣れっこで、敢えてメイに何も言わない。

そんな2人の様子を見たディルジが、冗談とも本気ともつかない呆れ口調で言った。

「相変わらず仲いいな。あまり見せ付けてくれるなよ」
「うるさいぞディルジ」

 

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持ち物の整理をし、弓の調整を終えたメイはいつもより早く床に就いた。

 

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「うーん、もしゃもしゃ…」
ベッドの質などはジャルデュルの家にあったものと大差ないのだが、それでも居心地良く感じるのは
やはり「帰って来た」という安堵感からだろう。
心地良い睡魔に身を委ね、夢路へと旅立つ。

(明日、どんなことするのかなぁ…わは、楽しみ)

 

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