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第7話 「下っ端のお仕事」

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「さて、と…そろそろ行って来るね」
ヴェケルが用意してくれたトマトスープとジャガイモパンという朝食を食べ終えたメイは、椅子から立ち上がった。

今、ラグド・フラゴンに人の姿は疎らだ。
つい先ほどメイに「仕事」を言い渡してすぐにブリニョルフはどこかへ出かけて行った。
ずっと不興続きの盗賊ギルドだが、特にこの最近は大打撃となり得ることが起きたらしい。
そのためにここ数日、ずっと忙しなく奔走しているのだと、朝食を摂りながらデルビンから聞いた。

 

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「ああ、気を付けて行ってこい」
「今度は処刑されないようにな」
「うぅ…つ、次からはもうあんなことにならないもんねっ」

 

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「今までと違うお仕事…よし、頑張ろっと」
今回ブリニョルフから言い渡されたのは、これまでの単純な盗みとは違う仕事だ。
盗賊ギルドから借金をしておきながら返済を渋る者が、盗賊ギルドの本拠地とも言えるここリフテンに複数いると言う。
その者達に、ギルドを軽視する態度が誤りであると教えた上で借金を回収してくるのが今回のメイの役割だ。

借金した金額分を盗み出すだけなら簡単だが、「払う気にさせる」というのが今回の役割においては重要で、慣れない仕事にさすがに緊張してしまう。

(でも…ブリニョルフが出向くまでもなく、あたしみたいな下っ端でもあいつらをビビらせてやれるんだってことを照明しなくちゃ)

 

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「触るな、盗賊め」
街の中央広場付近まで来た時、擦れ違った衛兵が吐き捨てるように言った。
慣れっことは言え、未だに気に障る。

メイが盗賊ギルドに所属しているという事実は、リフテン中に知れ渡っている。
リフテンの街で「仕事」をする機会の多いブリニョルフやサファイアも盗賊ギルドとの繋がりを噂されているが、
メイとは違って噂の域に留まっている。
メイは、リフテンの住人にとっては、いわば「盗賊ギルド代表」のような扱いだ。

 

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努めて平静を装いつつ、素通りしようとしたメイだが…

「かつてこの街を動かしていた盗賊ギルドも、今じゃ口先だけのごろつきだな。
こんな小娘を商売道具にしなければ成り立たないところまで来たか」

 

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「…はぁ?」
せせら笑うような物言いに、思わず立ち止まって振り返る。
頭部を保護する防具に覆われた衛兵の顔を確認することは出来ないが、おそらく嘲笑でも浮かべているのだろう。
メイに一瞥を向けた後、肩を竦めて去って行った。

 

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(何それ…商売道具ってどーいう意味?やらしー意味なの?)
去り行く衛兵の背に蹴りの一発でもくれてやりたかったが、そんなことをしたらスタップがかかり面倒臭いことになる。
当然、ブリニョルフから言い渡された仕事にも支障が出て、ギルドには何の益にもならない。

(今に見てなよ…今にギルドは、もっともっと凄くなるんだから。
もうすぐ盗賊ギルドがこの街を、ううん、スカイリムの全ての街を動かすようになるもんね)
怒りと復讐心を胸中で滾らせながら、改めてそう誓った。

 

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この仕事はそのための第一歩だ。
まずメイは宿屋「ビーアンドバルブ」を訪れた。

 

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朝食時を過ぎた時間ということもあり、宿屋は閑散としている。
この宿屋の女将は、アルゴニアンのキーラバだ。
彼女こそ、今回の標的の1人。

 

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朝食時が終わり、一時の静けさを取り戻した宿屋の掃除をしている彼女に近付いて行く。

「こんにちはぁ」
「あら、あんた…」
メイの姿を確認したキーラバの眉間に皺が寄る。
ここでもメイは全く歓迎されていない。
もっとも、メイがこの宿屋に姿を見せる度に、丹精込めて焼き上げたばかりの菓子が

「何故か」1つ残らず消えるという怪奇現象が何度も続くとなると、歓迎しろというのも無理な話である。

 

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「何?言っとくけど、今日はもうスイートロールもジンジャービスケットもないわよ。このコソ泥!」
メイをその怪奇現象の犯人と決め付けるかのように、喧嘩腰で言い放つ。

…事実である以上、文句は言えないが。

 

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「安心して。あたし、今はおなかいっぱいだから。
…あ、そーゆー問題じゃない?
まぁイイや」

そう言って、腰に手を当てながらさり気なく身体の側面に下げているダガーに触れ、小さな金属音を響かせる。

 

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盗賊ギルドの任務において、基本的に殺人は御法度だ。
今回の仕事も、1人も殺さぬようにとブリニョルフに強く言い含められている。

刀傷沙汰に発展させるつもりはないし、そうしたところで非力なメイでは簡単に取り押さえられて終わりだが、

刃物を持っているとそれなりに脅しの効果がある…と、メイは単純に考えた。

 

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「あなたがギルドから借りてるお金、返して貰うために来たの」
いつもより声音を低くし、精一杯凄味を持たせるよう意識しながら簡潔にそう告げる。

だが…

「お断りよ」
「…は?」

 

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「前にブリニョルフに言った通りよ。
あの馬鹿に1ゴールドだって払うもんですか!」
「なっ…」

すんなり払うとは思っていなかったが、まさかここまで大胆に拒否されるとも思わなかった。
メイは言葉を失い、まじまじとキーラバを見返す。
意表を突かれ、声音の高さも普段のそれに戻っている。

 

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「お願いしてるわけじゃないからね!?」
「見ての通り、このあばら家を維持するだけで精一杯なの。
全て戦争のせいよ」
「そんなの、あたし知らないもんね!とにかくお金返して」
「言ったでしょう?あんた達なんかに1ゴールドだって払うもんですか」

身を乗り出し、高圧的に言い放つキーラバ。
スカイリムでのアルゴニアンという種族への風当たりは強い。
リフテンは街全体の治安が悪く、混沌として雰囲気も手伝って種族差別は比較的少ないとは言え
故郷を遠く離れたスカイリムで宿屋を構えて切り盛りしているキーラバは、胆力も並ではない。

メイは思わず怯んで後ずさりしそうになる自分に内心で喝を入れ、次なる作戦へと移行する。

 

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「ふーん…そう。わかった。
じゃあ、モロウウィンドにあるあの農園に行くしかないかなぁ…」
聞こえよがしにそう呟く。

メイには、事前にブリニョルフから教えて貰ったキーラバの情報という切り札がある。
その内容は、キーラバの家族がモロウィンドウのとある農園に住んでおり、彼女は家族を心から愛しているというものだ。
こちらがこの情報を持っていることを示せば、キーラバの態度も変わるだろうと踏んだのだが…

 

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「好きにすれば?」
「えっ?…は!?
いや、あの…家族がどーなっちゃってもいいの?」
「あんた、モロウィンドウが今どんな状態か知ってるの?」
「えーっと…」

言葉に窮してしまう。
メイはあまり世事に明るくない。
正直、ギルドの外のことにはあまり興味がないのだ。

そんな彼女を心底見下した口調でキーラバが続ける。
「何も知らないのね。
レッドマウンテンの噴火や隕石の落下で、すっかり荒れ果てている。
今も噴火の影響で空気は最悪だし、とても人間が住めるような状態じゃないわ。
第一ね、あの農園までの道のりだってとても平坦とは言えないわのよ。
…私がスカイリムに辿り着くまで、どれほど苦労したか想像もつかないでしょう?
あんたみたいなのが辿り着けると、本気で思うの?」
「それはっ…そのぉー、平気だもん」

何の根拠もなく虚勢を張る。
しかし、城壁の外を歩くには常に危険が付き纏うのは事実だ。
まして国境を超え、馴染みのない土地に踏み出すとなると尚のことだ。
そして見知らぬ土地への遠征には念入りな準備が必要で、それには相応の費用がかかる。

キーラバは、その費用を捻出してまでモロウウィンド農園に出向くだけの余裕など今のギルドにはないと確信しているのだ。

 

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「じゃ、今からちょっとモロウウィンドに行って来るね」
「好きにしなさいよ」

 

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「ホントに行ってくるからね!?
あなたの家族、痛い目見ちゃうよ!?」
「無事に辿り着けることを祈っているわ。
きっと家族はあなたのことを「歓迎」してくれるわよ。
皆、過酷な環境で鍛えられた屈強なアルゴニアンよ」
「…ッ」

完全に見くびられている。
メイだけではなく、ギルドそのものが。

 

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(これはあれ、ほら…戦略的撤退なんだからね。
逃げるわけじゃないもんね)

メイとてこのまま手ぶらでギルドに帰る気はない。
しかし今の状態で粘り続けていても、キーラバは全く動じないだろう。

そこで、メイはまずは別の標的に当たることにした。

 

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