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第8話 「意外な協力者」

「ビーアンドバルブ」を出たメイは、その足で「ヘルガの宿舎」へと向かった。

ここは、リフテンに住まう労働者のための宿舎だ。
やはり今の時間は大半の利用者が仕事に出ている。

 

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しかし、静まり返っているというわけではなく、2人の女性が言い争っている声が聞こえた。

 

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「それは違うわ!
私と彼とは愛し合っているもの」

メイの立っている位置からは後ろ姿しか見えないが、あの金髪の女性がヘルガ…次なる標的だ。
ヘルガと対峙しているのは、彼女より一回り以上年下と思われる女性。
言い争っていると言うより、彼女のほうがヘルガに対して感情的になっているように見える。

ヘルガが軽く肩を竦めるのが見えた。

 

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「シビが考えているのは、ベッドインして終わらせることだけよスヴァナ。
あんな人のことなんか忘れちゃって、あなたも試してごらんなさいよ。
せっかく若くて素敵なのにもったいないわ」
「あり得ないわ!私は特別な人のために自分を大切にするの」

「あの~、お取り込み中悪いんだけどさ」
2人が何を言い争っているかなど、メイには興味がない。
無遠慮に割り込んだことで、2人は初めて来客の存在に気付いたようだ。
2人ともメイの姿を見た途端に顔を強張らせた。
メイが盗賊ギルドの者だということは既に知っているのだろう。

 

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スヴァナは箒を持ってその場からそそくさと離れた。
ヘルガが定位置であるカウンターへと戻ったところで、こちらから話を切り出す。

 

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「ブリニョルフの代理として来たよ。
あたし達から借りてるお金、今日こそ払って貰うからね」

 

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ギルドの関係者の来訪に、初めこそ緊張した様子を見せたヘルガだが、今はもうすっかり落ち着きを取り戻している。
メイとしては、硬質な声で用件のみを淡々と告げることで、却って威圧感を与えられると考えたのだが
あまり効果はなさそうに見える。

「先日、ないものはなと告げた筈よ。
お金がいきなり湧いて出るわけじゃないの。
来月は必ず払うから、それまで待ってちょうだい」
「却下」

申し訳なさそうにそう告げたヘルガの訴えをあっさり棄却する。
この女の胆力が並大抵ではないこと、金を返す気が全くなくてのらりくらりと逃げていることなどを
ブリニョルフから聞いて既に知っている。

 

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「こっちももう我慢の限界なんだよね。
払う気ないなら…それなりの手段に出るよ?」

その時、ヘルガがカウンターを叩く音が宿舎内に響いた。
不覚にもメイは傍目にもわかるほどに驚き、身を竦ませてしまった。
わかりやすい隙を見せたメイに、ヘルガはカウンター越しに身を乗りながら矢のように鋭い言葉を投げ付ける。

「お生憎様、こっちもよ!
だいたいねぇ、なんで払わなくちゃいけないの?
あなた達みたいなクズに払うぐらいなら、お金をドブに捨てたほうがマシだわ」
「な、な…」
「強気に出ても、あなたなんかちっとも怖くないわよ。
もうほんの少しだって払わないわ」

 

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「…ッ」
ヘルガの決意は固い。
メイがこれ以上何を言っても、ヘルガに考えを改めさせることは出来そうにない。
何か他に方法、あるいはヘルガの弱みはないかと宿舎の中を見回すと、この簡素な建物に不似合いな神像が目に入った。
なかなかの逸品だ。

そういえばヘルガは熱心なディベラ信者だとブリニョルフが言っていたのを思い出す。
メイには神々の区別がよくわからないが、つまりあれはディベラという神を模した像なのだろう。
あの像を盗み出せば取引の材料に使えるかもしれないが、今はすぐ近くでイヴァナが掃除しているから盗めない。

その時、メイの脳裏にある記憶が蘇った。
もしかしたら、この状況を打開する糸口を掴めるかもしれない。
「今に見てなよ」
ヘルガにそう言い捨ててから外に出る。

 

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メイの脳裏を過ぎったのは、何週間か前に目撃した出来事だ。
リフテンの街の片隅で、メイビン・ブラックブライアとヘルガが深刻に話し合っている現場を見た。

正確には、メイビンがヘルガに対して剣呑な様子で何かを訴えていた。
遠目から目撃しただけだから、会話の内容まで聞き取れなかったが、どうやらヘルガはメイビンの不興を買ったらしい。

メイビン・ブラックブライアと言えば、盗賊ギルドの協力者で、この街の実質的な支配者だ。
ヘルガがどんな理由からメイビンの不興を買ったのかはわからないが、これは彼女を強請る材料になるのではないか

 

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「インガンだったら何か知ってるかな…
知らなくても、きょーりょくしてくれるかもしんない」

インガンというのはメイビンの娘で、メイとも顔見知りだ。
ブリニョルフやメルセルならともかく、メイのような下っ端がメイビンと言葉を交わす機会など、まずない。
さすがにメイビンに「ヘルガはいったい何したんです?」と尋ねることは出来ないが、
彼女の娘であるインガンなら何か知っている可能性はある。

「…まためんどくさいこと頼まれそーだけど」
顔を顰めながらそう呟いた。
インガンは錬金術に傾倒していて、リフテンの薬屋の店主エルグリムの下で働きながら錬金術を学んでいる。
メイが非合法的な手段で入手した錬金素材を、インガンに個人的に買い取って貰ったことが何度かあった。
逆に、インガンに指定された錬金素材を入手して欲しいと頼まれたり、新薬の実験に付き合わされることもある。

友人…と呼べるのかは疑問だが、ギルドメンバーの除けば比較的メイと良好な関係にある人物と言えるだろう。

 

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「待って!」
薬局に向かおうと歩き出したところで呼び止められた。
足を止めて振り返ると、そこにはスヴァナの姿があった。

 

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「あなたは確か、スヴァナ…だっけ?」
「ええ、ヘルガの下で働いているの。
…いいえ、こき使われていると言ったほうが正しいわね。奴隷労働よ」

そう答えたスヴァナは顔を顰めている。
どうやら、ヘルガに対してあまりいい感情を持っていないらしい。
メイは彼女に少しばかり興味を覚え、話に耳を傾けることにした。

 

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「あなたは盗賊ギルドの人よね?
それで、あの女があなた達から借りたお金を取り返したいのでしょう?」
「うん」

「あの女」とは間違いなくヘルガを差している。
理由はわからないが、スヴァナはヘルガのことを快く思っていないのは明らかだ。
だとすれば、メイとは「敵の敵は味方」ということにもなりうる。

 

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「あの女は絶対に返さないわよ。
私はあの女がどれだけ頑固で強かかよく知っているもの。
あれだけきっぱり言い切ったら、ヘルガは絶対に決意を曲げないわ」
「だよね。正攻法じゃ無理だと思うよ。
何かあの女の弱みを握って強請りたいところだけど…
…それで、あなたは何か心当たりがあるんだよね?」

盗賊ギルドの者だと知っていながら声をかけてくるということは、何か含みがあってのことだ。
大抵の全うな人間は盗賊などとはお近付きになりたくないものだが、メイとインガンのように利害が一致すれば共生もそう悪くはない。
実際、盗賊ギルドは多くの者から疎まれながらも「必要悪」として存在しているのだから。

 

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「ええ、あるわ。
私はあのヘルガのある秘密を知っているの。
その秘密に関する証拠を掴んでヘルガに突き付けてやれば、
きっとすごく狼狽するんじゃないかしら…?」
「なるほどねー。
つまり、あなたはあの女にぎゃふん!って言わせてやりたいんだよね?」
「ええ、そういうこと。
でも、それはあなたにとっても益になる筈よ」

「私はヘルガが狼狽する姿を見て溜飲が下がる。
あなたはあの女の弱みを握って、お金を取り返せる。
いい案だと思わない?
それにはあなたの協力が必要だわ…メイ」

 

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「よし。乗った!」
躊躇いがちにその名を口にしたスヴァナに、メイは大きく頷いてみせた。