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第10話 「せめて意識の端っこに」

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借金回収を終えたメイは、意気揚々と帰路に着いた。
いつものように墓地の奥にある隠し通路から貯水池へと降りてすぐ、いつもとは異なる雰囲気に気付く。

 

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(どーしたんだろ?)

どこがどう、と言葉では説明し難い空気を肌で感じた。
シンリックが弓の練習をし、少し離れた場所ではサファイアとバイパーがテーブルを挟んで雑談している。
いや、もっと正確に言うなら、バイパーがサファイアの近くに座り一方的に話しかけているのだろう。
表面だけ見ればいつもと変わらぬ貯水池の風景だが、それでも何となく違う。

 

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見れば、ギルドマスターの執務机の側でブリニョルフとメルセルが何か話し合っている。
ここで話しているということは極秘の話題というわけではない筈だが、それでもギルドマスターと幹部との話し合いとなると
やはり重要なことなのだろう。
皆、彼らに遠慮してか、いつもより声を抑えたり動作も控えめだ。
これがメイの感じた違和感の正体らしい。

 

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メイとしても何となく近付き難く、それでいて何を話し合っているかは気になり、一定距離を保ちながら佇む。
不意に、メルセルが鋭く振り返った。

 

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何の前触れもなしに射貫くような視線を向けられ、心臓が止まるかと思った。
それこそ蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまう。

 

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(えっ!?)

何か怒らせるようなことをしただろうかと焦るメイだが、杞憂に過ぎなかった。
メルセルはメイの姿を確認した後、一瞬だったが確かに落胆した様子を見せた。
舌打ちし、すぐにメイから視線を外してブリニョルフへと向き直る。

 

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「何、今の」
メイは硬直からは既に回復していたが、何だか釈然しないままその場に立ち竦む。

「ブリニョルフは今、取り込み中だ。仕事の報告なら後にするんだ」
シンリックが弓を練習する手を止めてそう忠告した。
渋々ながらメイは頷く。

 

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「メイ」

 

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小さく名を呼ばれて振り返ると、テーブル近くにいるサファイアが手招きするのが見えた。

 

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サファイアに促され、メイもテーブルに備え付けられた椅子の1つへと腰を下ろす。

「ブリニョルフは今、マスターと大事な話し合いの最中だわ。
彼への報告はもう少し待ってからのほうがいいみたい」
「うん、シンリックにも言われたぁ。
にしても…ますたー、何か機嫌悪い?」

「相対的にって意味なら、確かにご機嫌斜めだな」
バイパーが会話に加わってくる。
「そーたい…てき?」
「ああ、常日頃を基準にして、それ以上ってことだよ」
「私が知る限り、あの人が機嫌がいいところなんか見たことないけどね。
でも、今日はいつも以上だわ」

 

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「何があったの?」
メイがそう尋ねると、2人の顔に何とも複雑な表情が浮かんだ。

「マスターのお気に入りの猫…つまりナギがまだ帰って来ないそうよ」
「しかも彼女は、お前と同じ頃にヘルゲンにいた筈なんだ。つまりは…」

バイパーは何かいいかけて言葉を濁した。
ドラゴンがヘルゲンを襲撃した時、その場にいたメイは命からがら逃げて来た。
しかし、同時刻にその場にいたと思われるナギが帰らない。
バイパーは「猫」の生死について言及するのを敢えて避けたのだが、メイはそれよりも別の点が気になった。

「そーいえば昨日、ますたーはあたし以外にヘルゲンから逃げた人がいないかってことを聞いてきた。
あれってつまり…」
「ナギのことだろうな」
「さっき、あたしのこと凄く睨んだけどあれは」
「ナギが帰って来たんじゃないかって思ったんだよ、おそらく」

 

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「…へぇ」
メイは僅かに口の端を吊り上げ、メルセルに視線を向ける。
彼はメイの帰還など全く関心がないようで、ブリニョルフと何やら話し込んでいる。

(あたしのことはどーでもいいのに、ナギが帰って来ないのは気になるんです?ますたー)

 

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メイは徐に立ち上がり、執務机のほうへと緩慢な動作で歩き出す。
「ブリニョルフにお仕事の報告しなきゃ」
「おい、止せ。後にしろよ」
「そうよ、邪魔しないほうがいいわ」

背後からバイパーが制止の言葉を投げかけてくる。
メイとしてもそれが正しいとは思うのだが、それでも足は止まらない。
気配を殺すでもなく、かといって必要以上に足音を立てるでもなく、ゆっくりとメルセル達へと近付き、
ある程度の距離まで来て立ち止まった。
バイパーやサファイアもそこまで積極的に止める気はないらしく、諦観しつつ事の成り行きを見守ることに決めたようだ。

 

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ブリニョルフは視線だけを動かしメイを一瞥した。
だが、メルセルはメイのことなどこれっぽっちも気に留めず、視線さえ向けようとしない。

 

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ブリニョルフに、「邪魔をする気はないからそのまま続けてて」と小さく身振りで伝える。
メイとしても、特に何をしようというわけでもない。
ただ、ナギの安否を気にかけているらしいメルセルに自分のことをどうでもいい存在、いてもいなくても同じの
道端の石ころのように扱われることが面白くなくて、せめて意識の端っこぐらいに割り込んでやりたいと思ったのだ。

…現時点ではその端っこにすら割り込めてもいないが。

 

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「…アリンゴスはいったい何を考えているのやら。
もう少し頭のいい男だと思っていたが、この後に及んで小銭が惜しくなったのか?」
「さぁな。よほどギルドが見くびられているか、あるいは…別方向から何らかの圧力でもあったか」
「別方向からの圧力…ね。メルセル、あんたは何か心当たりはないのか?」

 

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「あったとしても、現時点で先入観を差し込むのは得策ではないな。
まず、ナギに下調べをさせた上で密偵を送るつもりだったが…」

そこでメルセルは一度言葉を切った。
忌々しそうに眉間の皺を常以上に深め、舌打ちする。

「既にあいつに言い渡した任務は完了した筈だ。なのに、いったいどこをほっつき歩いているんだ」

 

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「命を落とした…とは考えにくいだろうな。
小娘が生還したってのに、ナギが逃げ遅れたとは思えない」
「当然だろう、ブリニョルフ。
その程度の役立たずなら、わざわざ連れて帰って来る必要もなかったからな」

傍で2人の話を聞きながら、メイは面白くないと感じていた。
あの後のヘルゲンの状況はわからないが、恐らく多くの者が逃げ遅れて命を落としたことだろう。
そんな中、メイはドラゴンの襲撃から辛くも逃げ切った。
しかし、メルセルのみならずブリニョルフまで、そのことについてメイを評価するよりも、むしろその事例を基準に
「メイに可能ならナギが逃げ切れて当然」と考えている。

(あたしがナギより劣るって決め付けてるの?)

 

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「一時的に動けない状態なのか、あるいは…
あまりこんなことは言いたくないが、敢えて戻らないのかもしれないぞ?メルセル」
ブリニョルフは珍しく言葉を濁し、明言を避けた。

しかし、彼の言わんとするところはメイでも何となく理解出来る。
ナギをギルドに連れて来たのはメルセルだが、お世辞にも彼はナギに慕われているようには見えなかった。
メイが知る限り、ナギは常にメルセルに反抗的な態度を取っていた。

ギルドへの愛着があった風でもなく、任務の目的地だったヘルゲンが全くもって予想だにしない出来事で壊滅したのを機に、
姿を晦ましても不思議には思わない。
だが、メルセルは確信を持ってブリニョルフの言葉を否定した。

 

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「いや、それはありえないね。
あいつの意思で行方を晦ますということは絶対にない」

 

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「…そうなのか?
まぁ、あんたがそう言うんならそうなんだろうな」
ブリニョルフは釈然としない様子だったが、それでもメルセルの抱いている確信に同意してみせた。
これも一重に彼への揺るぎない信頼の賜物だろう。

 

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しかし、メイはブリニョルフとは違う。
(なんでそんなにナギを信じてるんだろう?)

「ますたーは、どーしてそんな風に言い切れるんです?」
しまった、と後悔しても時既に遅し。口から言葉が滑り落ちた後だ。

 

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メイも下っ端という自分の立場は弁えている…つもりだ。
普段はブリニョルフに良くして貰っているとは言え、ギルド内の立場がある者同士としての話し合いの最中に口を挟むなど
言語道断だと頭で理解してはいる。
なのに、口を噤むべきだとわかっていながら、尚も言葉が滑り落ちていくのを止められない。

「ナギは別にギルドに思い入れがあるわけでもないっぽいし、ぶっちゃけギルドが潰れてもどーでもいーんじゃないです?
あたし、ナギがあの時同じ場にいても全然気付かなかったし逃げてる途中でも見かけなかったけど、
彼女が逃げ遅れてドラゴンにぺしゃんこにされたとは思えないんですよね。
どさくさに紛れて逃げて、もうギルドには帰って来ないつもりなんじゃ――って」

 

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「ああ、帰って来たのか小娘。それで、首尾はどうだ?
あの不届きな連中から金を回収出来たのか?」

ブリニョルフが、わしゃわしゃと頭を撫でながら尋ねた。
さも「たった今気付きました」と言わんばかりの態度だが、当然ながらもう既にメイに気付いていた。
更に、メイはこう見えてもギルドの仕事に対して真面目かつ熱心で、一度引き受けた仕事が完了しない内から戻って来ることはそうそうない。
ブリニョルフも彼女の性格を理解しており、無事に回収出来たと察した上でこんな言い回しをするのはメイの失言に対してのフォローである。
そこにはメイに対しての警告も含まれている。

「あ、うん。上手くいったよ。もちろん誰も殺してないし。はい、これがお金」
メルセルに見せつけるように、メイに手渡された革袋の中身を検め始めるブリニョルフ。
きっちりの金額が詰まっていることを確認し、満足そうに頷く。
「よしよし、上出来だ。よくあの強情な連中を説き伏せて、1人も殺すことなく金を回収して来てくれたな。
メルセル、俺達から多額の借金をしていた連中からこいつが無事に金を回収して来たらしい。
どんな方法を使ったにせよ、やはりこいつは見所のある奴だ。そう思わないか?」

メイの頭をぽんぽんと叩きながら、メルセルに彼女に対する評価を伝える。
言外に「だから今の失言は許してやってくれ」と仄めかしているのだ。
因みに頭を叩く手にはそれなりに強めの力加減で、そこにはメイへの警告の意味が含まれている。
内心で「ちょっと痛いんだけど」と思いながら、メイはメルセルの反応を伺う。

 

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メルセルは少しの間不愉快なものを見る目をメイに向けていた。
そんな目を向けられ、メイとしては萎縮して非常に居心地の悪い思いなのだが、それと同時に奇妙な満足感のようなものも感じていた。
意図した通り、メルセルの意識の端っこに割り込むことに成功したからだ。

「お前が連れて来た連中の中ではまだマシなほうなのか?
もっとも、ヘルゲンでの一件を聞いた限りではそう判断するのは早計だが」
と、冷淡に言い放つ。
無礼な物言いをすることでメルセルの注意を一瞬でも自分に向けることには成功したが、彼のメイに対する評価がまた一段と下がった気がするのは気のせいではないだろう。
ますます萎縮してしまう。
ブリニョルフが苦笑を浮かべながらメイの頭を軽く叩く。今度は穏やかな力加減だ。

「お前には魔術の心得はないのか?」
「……えっっ?」
唐突なメルセルの問いかけに、上擦った声が漏れる。
一瞬何を問われたかわからなかったが、彼の目が長い耳へと向けられていることに気付き、言わんとしていることを理解した。
理解したものの、それによって居心地の悪さはますます募る。

 

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「あー…えっと。ないです。
魔法なんか全然使えません」
「じゃあメルセル、ゴールデングロウ農園の件についてヴェックスと話をして来るとしよう。こっちは任せておいてくれ。
あんたは他に取り掛からなければいけない案件があるだろう」
メイが消え入りそうな声で答えたところで、ブリニョルフが流れを無視して割り込んで来た。もちろんこれもメイを気遣ってのことだ。
メルセルはメイについてはそれ以上何も言わず「ああ、頼んだ」とだけ言って、その場から離れる。

 

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「小娘、お前も来い」
そう言ってラグド・フラゴンの方向へとメイを促すブリニョルフに、もちろん反対する理由もなく、むしろその場から逃げるように彼の後に続く。

 

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(魔法…かぁ)
内心で苦々しく呟いた。
ブリニョルフに促されてラグド・フラゴンへと向かうメイの背後で、サファイア達が安堵の表情を浮かべてその後ろ姿を見送っていた。
立場上、ブリニョルフのように積極的に割り入ることは出来ないものの、ギルドマスターに対して不躾な言動を取るメイのことをはらはらしながら眺めていたのだ。

 

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「でも、ホントにますたーはなんであんな風に言い切れるのかなぁ?」
「…さぁな。俺にはわからん。
メルセルにはメルセルなりの考えがあるんだろう」
「…ふぅん?」

 

 

 

 

 

 

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「ふぅん、なるほどね。
やっとあたしの出番ってわけかい」
ブリニョルフからの報告を受けたヴェックスは、そう言って不敵に笑ってみせた。

「ああ、頼んだぞヴェックス」

 

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「よし。早速準備に取り掛かるとするよ」
言うが早いか、腕利きの女盗賊は優雅に身を翻しどこかへと向かう。

ブリニョルフもその「準備」に協力するために、一度フラゴンから出て行った。

 

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メイはパンを頬張りながら、彼女の後姿を羨望の籠った眼差しで見つめた。
そして溜息1つ。

 

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「どうした?随分と浮かない顔をしているな」
気遣わしげに声を掛けてくるデルビンに、「うんー」と曖昧に答えた。

「さっき確かアリンゴスって名前が出てたけど、ってことは、ごーるでんぐろー農園…だっけ?そこに忍び込むんだよね?」
「そういうことだ」
「ギルドにとって重要な場所なんだよね。
やっぱりあーゆー難しくって重要な任務はヴェックスの担当かーって思ってさ」
「ああ、そういうことか」
デルビンはメイが浮かない顔をしている理由を理解した。

「ヴェックスはギルドでも随一の腕だからね。
それに、君が生まれる前から盗賊として生きて来た女性だ。
そうそう簡単には追いつけないが、だからと言って焦ることはない。
君だって今日、借金の回収を上手くことしたじゃないか」

 

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「…そっかぁ。ありがと、デルビン
そーいえばさ、何かナギの名前も候補に挙がってたっぽいけど」
「ナギは盗賊としての腕はヴェックスにはさすがに引けを取るものの、魔法にも得手だからな。
見張りの人数や時間ごとの動き、それに屋敷内部の間取りを把握するのに適任なんだよ。
ヴェックスの腕については言う間でもないが、それでも情報は多いに越したことはない」
「へぇ…魔法ってそんなことも出来るんだ」

メルセルのことだから、ナギに下調べをさせて現場の警戒体勢の全貌を完全に掴んだ上でヴェックスを向かわせるつもりだったのだろう。
なるほど、それならまず失敗はないだろうとメイは思った。

 

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デルビンが「やることがある」と言って席を立ち、その後同じ場所にブリニョルフが腰を下ろした。

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「そーいえばさ、アリンゴスっていったい何をやらかしたの?
確かあの人はギルドの金蔓だったっけ?」
「そう、アリンゴス…ゴールデングロウ農園は俺達にとって金のなる木だった」

ブリニョルフは苦々しい面持ちで、メイの与り知らぬところで起きていた出来事について語り始めた。
リフテンの名士で、盗賊ギルドのパトロンでもあるメイビン・ブラックブライアは、ブラックブライア蜂蜜酒醸造所の元締めという顔も持っている。
ゴールデングロウ農園はスカイリム随一の品質の蜂蜜の産出しており、ブラックブライアはゴールデングロウ農園の蜂蜜の最大の出荷先だ。
正確には、ブラックブライア蜂蜜酒醸造所が独占していたと言うべきか。

そして両者間の力関係のはっきりした取引きの裏には盗賊ギルドの存在があった。
ゴールデングロウ農園が、ブラックブライアに対して少しでも反抗的な態度…他の場所に蜂蜜を販売する動きでも見せれば、ギルドはそれを阻止して来た。
それと同時に、ギルドは地代としてゴールデングロウ農園から多額の金を巻き上げていた。

そのように、長きに渡ってギルドと「協力関係」にあったゴールデングロウ農園だが、最近になってギルドへの支払いを中止したいと言い出したのだ。
しかも、とても巧妙に、ギルドの者の目すらすり抜けて蜂蜜をどこかに運んでいるという情報も入っている。
ヴェックスはアリンゴスが何をしようとしているのか、それを探るために農園内に潜入するという次第だ。
農園は常に腕利きの見張りを置いているが、最近はその数を何倍かに増やしたらしく、並の盗賊では近付くことさえ出来ないほどの警戒態勢だ。

 

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「さ、さ…さくし?さくす?えーっとえーっと」
「”搾取”か?」
「そうそう、さくしゅ。搾取され続けることに嫌気が差して、ギルドを裏切っちゃったのかなぁ?」
ブリニョルフの話に耳を傾けていたメイは、彼が言葉を切ったタイミングで自分の考えを口にした。
ブリニョルフは「いや」と言って首を横に振る。

 

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「確かに俺たちはアリンゴスから多額の金をせしめていた。
だがな、それでもあいつの手元には農園を維持しながら十分に贅沢な生活が出来るほどの金があったんだ」
「ふぇぇ…アリンゴスってしこたま儲けてたんだね」
「そうだとも。
ブラックブライア家との協力関係は、奴にとっても莫大な利益になったんだよ。
ところが、あいつが俺達への支払いを拒否し、しかもブラックブライアとの取引きを一方的に止めるってのは、
メルセルとメイビン両方を敵に回すってことだ。
小金惜しさに欲を出したと考えるには割が合わない」

メイはこくこくと何度も頷いた。
メルセルとメイビンの不興を買うなど、考えただけでも恐ろしい。
大抵の者なら、そんな事態になったら生きた心地もしない。

 

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「アリンゴスはどーしてそんなことしたのかな?」
「さてな。俺には皆目見当も付かないな」
メイと違い、ブリニョルフは広い視野の持ち主で、また多角面から物事を見る才覚もある。
更には頭もすこぶるキレるが、そんな彼でもアリンゴスの目的はわかりかねるようだ。
何にせよ、今はヴェックスに任せておくしかない。
お互いにそう結論付けたところで、メイはふと思い付いたことを尋ねた。

「にしても、魔法って見張りの人数調べたりとかも出来るんだ?」
「ああ。正確には、一定距離内の生き物の存在を魔力で探知するらしい。
他にも足音を魔法で消したり、隠された通路を見つけ出したり、もっと上級の魔法になれば透明化も可能だって聞いたな」
「透明化!?薬を使わなくても!?」
思わずテーブルから身を乗り出してしまう。
透明化の薬はいざという時の切り札として、盗賊達に人気のある薬だ。
しかしその材料はいずれも入手が困難で、薬の調合も複雑だ。
そのために薬自体がそうそう売っているものではなく、売っていたとしても極めて高額だ。

 

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「そう、薬を使わなくても透明化が可能なんだとさ。
もっとも、習得は相当に厳しい道のりだろうな」
「だよねーやっぱり…うーん、魔法かぁ。
あたし、魔法って苦手だけど使えたら便利なのかな?」
「そりゃあ便利だろうよ、小娘。
お前が既に習得している盗術と組み合わせることで、総合力を高めることだって出来るだろうしな。
…お前なら素養もあるかもしれないし、興味があるならミストヴェイル砦にいる宮廷魔術師を訪ねてみたらどうだ?」
「うんー…考えてみる」

メイは言葉を濁した。
確かに興味はあるが、魔法というもの全般に強い拒否感のあるメイとしては今すぐ習得のために動く気にはなれなかった。

 

 

 

一方、死亡説が実しやかに囁かれるナギはと言うと――…

 

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「…ここはどこだ?」
水面近くを浮遊するように、夢と現の間を心地良く漂っていた意識が覚醒すると同時に視界に映る景色も明瞭になっていく。
ナギの目に飛び込んで来たのは、石造りの高い天井。そして艶めかしい女性を象った石造。
背中に感じる床の冷たい感触が気持ちいい。
どうやらナギは石造りの建物の、これまた石造りの床の上に転がっているらしい。

 

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ゆっくりと半身を起こし、再び周囲を見回す。しかし、全くナギの記憶にはない建物だ。
「本当にどこなんだ?」