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第0話 「青天の霹靂」

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収穫の月の17日のこと。
スカイリムの短い夏も後半に差し掛かかろうというこの日、朝から快晴で抜けるような青天が広がっていた。
ところが、陽が高くなるにつれて収穫したばかりのツンドラの綿のような入道雲が空を多い始めた。
この空を見上げながら、一雨来そうな予感を覚える者もいることだろう。

しかし、ここヘルゲンの街はまだ夜も空けぬ内から物々しい雰囲気に包まれ、空を見上げる者など1人としていない。

 

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誰もが、今しがたヘルゲンに到着したばかりの2台の馬車へと注意を向けている。

馬車が運んできたのは十数人の囚人。
正確には、スカイリムの内戦の首謀者ウルフリック・ストームクロークを含む反乱軍の兵士達。

 

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「なんてことだ」

群集の1人…ナギが思わず口に出してしまった呟きは、しかし、周囲の喧騒にすぐに掻き消された。
目の前の光景に動揺を覚えたナギだが、すぐにいつもの慎重さを取り戻す。

 

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誰にも怪しまれることのないよう、努めて自然な振る舞いを…
この場合、反乱軍の首謀者であるウルフリック・ストームクロークを注視するふりをする。

スカイリムは、金髪碧眼に屈強な体躯を持つノルドが人口の大半を占める土地だ。
ナギのような黒髪は珍しい。体型や顔立ちも、ノルドのそれとは異なる。
何より、頭の上にぴんと立った、猫族のカジートのような耳。
ナギはスカイリムではそれなりに目立つ外見をしている。
もっとも、この耳に関しては、田舎娘が帝都シロディールで流行しているアクセサリーを真似ているものとしか思わないだろう。

 

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幸いにして、この場に集まった全ての者の意識は反乱軍のリーダーへと向けられており、誰1人としてナギを気にするものなどいない。

反乱の首謀者にして反乱軍のリーダーでもあるウルフリックも、今や捕らえられて両腕を拘束され、猿轡まで噛まされている。
おそらくこれは、彼が持つという「声の力」を危惧してのことだろう。
ウルフリックへと注がれる視線は、実に様々な感情が見受けられる。
ここヘルゲンは帝都シロディールとの国境に位置する街で、帝国側に所属している。
内戦を引き起こしたウルフリックを憎む者が大半だが、彼を英雄視する者も決して少なくはないのだ。

しかし、ナギの意識は彼ではなく別の者…ウルフリックと共に、このヘルゲンへと護送されてきたばかりの「囚人」の1人へと向けられている。
「囚人」は殆どが反乱軍の者で、しかもリーダーの側に付き添う者だけあって、精鋭中の精鋭なのだろう。
いずれも、捕らえられ死を待つばかりの身となっても、怯えを見せない屈強な戦士ばかりだ。

そんなノルドの戦士たちに混じり、明らかに浮いた者が2人いる。
1人は、今にも泣き出しそうなほどに怯え、「俺は反乱軍じゃない」としきりに訴える男。

もう1人は、長い金髪を垂らした娘。
今は粗末な囚人服に身を包んでいるが、これが本人の趣味でないことは明らかだ。
ナギの意識は、彼女に向けられずにはいられない。

 

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(君の悪運もこれまでなのか)
今度は声に出さず、心の中で苦々しく呟いた。
その少女…メイのことをナギは知っている。

ナギは数年前から盗賊ギルドから仕事を請け負うようになり、メイはギルドを通して知り合った。
一見すると、シロディール貴族のお嬢様のような雰囲気を持つメイだが、実は盗賊ギルドに所属する盗賊だ。
確かに悪党には違いないが、ウルフリック・ストームクロークと共に処刑されるほどの大物でもない。

最後にメイに会ったのは、このヘルゲンからずっと東の方角にあるリフテンの街の地下にある盗賊ギルドの本拠地でだが、その時に確か「これからペイル地方に行く」と言っていた。
そして、ウルフリック率いる反乱軍はペイル地方のダークウォータークロッシングの付近で捕縛されたと言う。

メイは盗賊としての腕は悪くない…というより、抜きん出ているといったほうが正しい。
しかし妙に間の悪いところがあり、同時にかなり抜けている。
メイは盗賊としての技能は天才的なのに、手癖の悪さが原因で、つまらない失敗を招くことがこれまでもあった。

メイのことだから、恐らくは反乱軍の野営地に忍び込み何かを物色している時に、反乱軍と共に捕まった…といったところだろう。
ナギには今回もそのパターンだろうと思えて仕方がない。

ナギがこのヘルゲンの街に到着したのは3日前だ。
この街にはとある目的のためにやって来て、本来なら今頃、東にあるリフテンに向けて旅立っている予定だった。

足止めを食らったのは、昨日の夕刻近くに早馬でこの街にもたらされた伝言のせいだ。
曰く、「反乱軍の首謀者ウルフリック・ストームクロークを捕らえた」と。

それからというもの、ヘルゲンは夜を徹しての騒動となった。
念のため、ヘルゲンへの出入りは一時禁止となり、ナギもここに足止めされているという次第だ。
こうして、ウルフリック・ストームクロークの処刑というスカイリム中の関心を集める一大事に立ち会うことになった。

 

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ナギの胸中などお構いなしに、とうとう処刑が始まる。

(それにしても、まさか処刑とは…せめて私が君の死を見届けよう)

ナギは、メイとは友人と呼べるほど仲がいいわけではない。
とは言え、同じギルドの仲間であることに変わりはなく、かれこれ4年ほどの付き合いになる。
無残にも殺されてしまうとなると、やはり何も感じないというわけにはいかない。

この時、ナギの注意は完全にメイへと向いていた。
また、他の者は例外なくウルフリック・ストームクロークを注視している。
それ故に、この時のナギは自分の背後へ全く注意を払っていなかった。

不意に首を仰け反らせた。
いや、正確には背後から耳を引っ張られたのだ。

「……ッ!?」
驚きと痛みに、声にならない声を上げる。
「外れない!?まさか…本物?」
ナギのすぐ背後から、驚きと隠し切れない好奇心を含んだ声が聞こえた。男の声だ。
ナギは耳を引っ張る手を振り払い、相手から距離を置きながら振り返った。

 

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非難を込めた視線の先に立っているのは1人のカジート。
獣人の年齢はわかりにくいが、どうやら若者のようだ。

「信じられない。カジートのような耳を持つ人間を、ジェイ・ザルゴは初めてみた!
作り物にしては、感情に合わせるように動いていたからまさかと思ったが…いや、驚いた!」
カジートの青年は、ナギの非難の目などどこ吹く風といった様子だ。

ジェイ・ザルゴというのが彼の名前なのだろう。
あまりにも悪びれた風のないジェイ・ザルゴに拍子抜けして、言い返す言葉が咄嗟に出てこない。
ジェイ・ザルゴはお構いなしに、ナギに詰め寄り再び耳を引っ張る。

「シロディールでは、こんな耳を持つ人間はいなかった。
ジェイ・ザルゴが見たのは、綿や狐の毛皮で作った飾りばかりだった。
スカイリムでは普通なのか?」
「…とりあえず離してもらおうか」

うんざりした様子を隠そうともせず、首を振って相手の手から逃れる。
後ずさり、ジェイ・ザルゴの手の届かない距離まで離れ、耳を押さえながら本気で嫌がっているという意思表示をする。
ジェイ・ザルゴは我へと返ったような表情で、ナギを見返してきた。

「ああ、これはすまなかった。ついつい興奮して、我を忘れるところだったよ」
「いや…」
面食らうような不躾な行動を取ったかと思いきや、今度は素直に謝罪されて、再び拍子抜けしてしまうナギ。
少しだけ語調を和らげる。

「ジェイ・ザルゴ…だったかな。
君も知っての通りだろうけれど、耳を引っ張られるのはどうにも苦手なんだ。
遠慮してもらいたい」
「わかった、ジェイ・ザルゴはそうしよう。
…それで?つまり、やっぱり本物なんだな?生まれ付きなのか?」
「生まれ付きというか…魔法によるものだよ。後天的だな」
「魔法だって?魔法でそんな耳になったのか?」
「いかにも。変性魔法に少々手を加えたもので、オークフレッシュを基盤とし、呪文の一部に召喚魔法の…」

不意にナギは言葉を止めた。
ジェイ・ザルゴが子供のように目を輝かせ、真剣に聞き入っている姿が見えたからだ。

 

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(まさか…まずいことになったか?)

内心で自問自答する。
ナギが今言ったことは、耳について言及された時のために用意しておいた嘘だ。
いっそ堂々と耳を見せていると、大抵の者はただの飾りだと思ってくれる。
言及してくる者もごく稀にいるが、魔法による後天的なものだと聞くとそれで納得してくれる。
多くのカジートは魔法に関心を持たない者も多く、ジェイ・ザルゴもおそらく途中で退屈して飽きてくれるものだと思ったのだが…

 

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「ほう!ますます興味深い!変性魔法と召喚魔法を組み合わせて…むむむ、何だか面白そうだ!」
「あー、その、ジェイ・ザルゴ。君は魔法に興味があるのかな?」
「いかにも。ジェイ・ザルゴはウィンターホールド大学で学ぶためにスカイリムへとやって来た」
大仰に頷くジェイ・ザルゴ。
ナギは内心で呻いた。

スカイリムはタムリエルでも最北に位置し、ましてやウィンターホールド大学がある地はスカイリムでも最も寒さの厳しい場所だ。
カジートは本来は砂漠に住む者で、このスカイリムまでやって来るのは何かしら大きな目的を持った者か、あるいは選択の余地がなかった者だ。
前者のタイプは、良く言えば目的意識が明確で主体性があるということで、関心を向けた事柄に対してはそう簡単には引き下がらない。
ジェイ・ザルゴはどうやらその前者らしく、それだけに事と場合によっては非常に厄介な相手となり得る。

そして、ナギは今まさに「厄介なことになった」と感じていた。

「そ、そうか。立派な志だ」
「そうとも!ジェイ・ザルゴはここで多くを学び、より強い魔術師になる。
スカイリムに到着したばかりで、こんな凄い魔術師に巡り合えるとは驚いたよ」
「それは良かった。魔法については後でゆっくり話そう。
今はこの処刑を見届けたい。
その…知り合いが処刑されるんだ」

ナギは別に魔術師というわけではないのだが、敢えて訂正はせず相手に調子を合わせつつ遠回しに「大人しくしていろ」と伝えた。

もちろん「後でゆっくり話す」つもりなどナギには毛頭ない。
ジェイ・ザルゴを適当に撒いて逃げるつもりだ。
しかし処刑を見届けたいというのは紛れもない本心で、そこに含まれた感情を読み取ったのか「わかった」とだけ短く言った。

 

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話が通じない相手でもないらしいことを意外に思いつつ、ナギは再び囚人達…メイへと視線を戻す。
既に処刑は開始されており、首を落とされたストームクローク軍の死体が処刑人の足元に転がっている。
メイはまだ生きている。

その時、低い唸り声にも似た音が鼓膜を振るわせた。
他の者は誰1人気に留めていないことから、恐らく空耳だろう。
そう思ったが、ジェイ・ザルゴだけは音の発生源を探るように周囲を見渡している。

「今のは声は何だろう?」
「君にも聞こえたのか…」
ナギは「唸り声のような音」と感じたが、ジェイ・ザルゴははっきりと「声」と断定した。

カジートの聴覚は人間のそれよりも優れていると聞く。
しかし、今の「声」だとすればどんな生き物がそれを発したのか、ナギにはまるで見当が付かない。

再び、あの音が大気を振るわせた。
今度は先ほどよりも大きい。
即興の処刑場に集まった者達も、今度は顔を上げて周囲を見渡し始める。

「今のは何だ?」
「どうってことはない。続けよう」
「はっ」
処刑場の前で、帝国軍がそんな遣り取りをするのが見えた。

 

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「次の囚人!」
帝国軍の女将軍が叫ぶ。
その視線はメイへと向けられている。
(ついに来たか……)
無意識の内に唇を引き結ぶ。

帝国軍の1人に促されながら前に進み、地面に跪き、斬首台に頭を乗せる。
遠目からでもわかる綺麗な金髪が、陽射しを浴びて輝いている。

処刑人が、巨大な斧を大きく振り上げる。
それが振り下ろされる、まさにその瞬間。

 

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現れたのは巨大な獣。

誰も知らない、見たことがない、それでいて誰もが知っている存在。

「ドラゴン―――」

 

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塔の上に現れたその存在を見上げながら、ナギが無意識に口にした呟きは大地を揺るがす咆哮に掻き消された。

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