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第11話 「抜け落ちた記憶」

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ここがどこなのか、そもそもどのようにしてここに来たのか、ナギには全くわからない。
しかしこの建物に祀られている石像には見覚えがある。
美と芸術の女神ディベラだ。
持ち運び出来る小さな像なら、ナギも目にしたことがある。

 

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ナギが今いる建物が、もし仮にディベラを祀る聖堂なのだとしたら…
認めたくない恐ろしい可能性が浮かび上がったが、倒れ伏せたジェイ・ザルゴの姿を見つけたことで吹き飛んでしまった。

 

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「ジェイ・ザルゴ!?」

 

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ジェイ・ザルゴの側に駆け寄り、床に転がっている彼を見下ろす。

 

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「んんぅ、むにゃむにゃ…ジェイ・ザルゴは大成するよ、それが間違いない…すぴーすぴー」
呑気な寝言が聞こえ、ナギは脱力した。
外傷なども見当たらず、ただ眠っているだけのようだ。

 

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「…どこまでも呑気な奴だな、君は」

 

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「あら、やっとお目覚めかしら?」
呆れつつも安堵して胸を撫で下ろすナギに、棘のある声が飛んで来た。

 

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振り返ると、長衣に身を包んだ聖職者と思しき女性が立っている。
その声から察せられる通り随分と不機嫌そうだ。
ナギにとって彼女は初対面で、怒らせるようなことをした覚えなど全くないのだが、状況が状況だけに不安になる。

 

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「申し訳ない」
何が何やらさっぱりわからないが、一先ず頭を下げて殊勝な態度を見せておく。
「全くだわ。
あなた達、聖堂で酔っ払って散々暴れた挙句、床で高いびきかいて寝ているんですもの!
本当にいい迷惑だわ。
起きたのなら、早く片付けて頂けるかしら?」

 

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そう言って彼女は、この建物…聖堂の内部を、どこともなく手振りで示した。
見れば床に空き瓶や紙屑などが散乱している。
ナギは唖然とした。

 

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彼女の話が本当ならば、この惨状はナギとジェイ・ザルゴによるものらしい。
ナギには自分がそんな行いをしたなど到底信じられなかったが、ここに至るまでの記憶がないこと考えると誤解とも考えにくい。

ナギは思い切って先ほどから気になっていた、それでいて確かめるのが怖かった疑問を投げ掛けることにした。

「あー…司祭殿」
「私はセナよ」
「失礼、セナ殿。先ほど聖堂と仰ったかな。ここで祀られているのはディベラだろうか?」
「ええ、そうよ」
「ということは、まさか…ここはマスカルス?」
「…?当たり前でしょう?」

 

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何を言っているの、と怪訝な顔をするセナ。
ナギは絶句しつつ、頭の中で「マルカルス」と先ほどの自分の言葉を反芻する。
自分が今マスカルスにいるという、たったそれだけのことを理解するのに時間を要した。
いや、脳が理解することを拒否していたといったほうが正しいか。

 

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「とにかく、早く片付けて頂戴」
「わかった」

何が何だかわからないまま、ナギは頷いて彼女の言葉に従うことにした。

 

 

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ちらりと横目でジェイ・ザルゴを伺ったが、彼はまだ気持ち良さそうに熟睡したままだ。
起こそうかとも考えたが、いい夢でも見ているらしく寝ながら笑みを浮かべているその様を見ると、それも忍ばれる。
仕方なく自分だけで清掃を始めることにした。
疑問は山ほどあるが、セナから情報を得るにしても彼女の不興を買ったままであれこれ尋ねるのは得策とは言えない。

 

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聖堂内には様々なゴミが散乱し、倒れた拍子に火が消えたらしい燭台が床の上に転がり、机にかけてあった布がずれて乱れている。

(これを私が…私とジェイ・ザルゴがしたというのか)
聖堂内を清掃する手は止めないまま記憶の糸を辿るが、マスカルスにいる理由については全く何も思い出せない。

 

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ナギが覚えている限り、最後にいたのはホワイトランだ。
ホワイトランからマスカルスへの道のりは険しく、また危険も多い。
旅をするなら入念な準備と注意が必要な道のりだ。

そこに辿り着くまでの記憶が完全に抜け落ちるなど、普通なら有り得ない。
どんなに酔っ払っていたとしてもだ。
そもそも、記憶が完全に抜け落ちるほど酔っぱらった状態で生きて辿り着けるほど楽な行程でもない。

 

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ナギの脳裏に1人の男の顔が浮かんだ。
黒い長衣を来た、赤ら顔の男…確かサムと名乗っていた。

 

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(あの男が我々に何かしたのか?)

 

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そんな疑問を胸中で呟くが、ナギの脳裏に浮かんだサムは謎めいた笑みを浮かべるばかりだ。

 

 

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「セナ殿、聖堂の片付けが完了した」
ナギがそう声をかけると、セナは聖堂内を見渡してから小さく頷く。
「結構。ご苦労だったわ。
…にしても、騒ぎの張本人はまだ寝ているの?」
「騒ぎの張本人?ジェイ・ザルゴ…私の連れのカジートのことだろうか?」
「ええ、そうよ。
酔っ払っているのかスクゥーマでもやっているのか知らないけれど、聖堂内を走り回って散らかしてくれたわ。
燭台をなぎ倒したり、挙句には聖像に抱き着くわで驚いたわよ」

 

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「…あなたは彼を止めようとしていたけれど、途中で諦めて寝てしまったみたいね」
「……」
ジェイ・ザルゴの所業について不満を零した後、少しばかり申し訳なさそうに付け加えた。
どうやら本来ならセナが怒りの矛先を向けるべきはジェイ・ザルゴで、先ほどのナギに対する態度は八つ当たりに近いらしい。
ナギの殊勝な態度が功を成し、セナも機嫌を直したことで冷静になり、その事実を思い出したというところか。
ナギとしては何とも複雑な気持ちだが、しかし今は他に気にかかることが多すぎる。
ゼナの様子を伺いながら、慎重に尋ねる。

 

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「セナ殿、今日が何日か教えて頂けるだろうか?」
「え?…今日は収穫の月の19日よ」
「19日?」
その答えに少なからず驚いた。
しかし、すぐに冷静さを取り戻し、「了解した。ありがとう」と小さく頭を下げる。

セナに気付かれないよう嘆息してからジェイ・ザルゴへと視線を向けると、まだ床の上で熟睡している。

 

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セナに「懺悔も兼ねて礼拝がしたい」と伝え、石の椅子の1つへと腰を下ろした。
九大神を信仰するナギはそれなりに信仰心はあるが、今はそれ以上に気持ちを落ち着かせることと思考を整理する時間が必要だと感じた。

覚悟していたこととは言え、やはり何か途方もない大きな「力」が動いていることは最早疑いようがない。
ドラゴンがヘルゲンを襲撃したのが17日のこと。
その日、ナギとジェイ・ザルゴはリバーウッドの宿屋で一夜を明かした。
本来なら翌日にはナギはリフテンに、ジェイ・ザルゴはウィンターホールドへと向かう筈だったのだが、故あってホワイトランに立ち寄ることとなった。
そしてサムと名乗る男に会ったのだが…。

そこから丸1日分の記憶が途切れている。
サムが何者かはわからないが、ナギ達が置かれている不可思議な状況と無関係ではないだろう。

 

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(サムのことを抜きにしても、まだ2日しか経っていないのが信じられないほど濃い2日だったな)

その主な原因は他でもない、すぐ近くで眠りこけているカジートだ。
祈りを捧げながら、ナギは今に至るまでの記憶の糸を探っていく。

 

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