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第14話 「昼下がりの盗賊」

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かちゃかちゃと金属が触れ合う音が訓練室に響く。
開錠の成功を示す小気味いい音が聞こえるまで、そう時間はかからなかった。

シンリックが金属で補強された宝箱の蓋を持ち上げると、それは何の抵抗もなくすんなりと開いた。
もっともあくまで練習用の宝箱に過ぎず、中身は大して価値のない石がいくつか入っているだけだ。

「ふぉぉ…」
目を皿のようにして彼の開錠術を眺めていたメイは、相変わらず鮮やかな手並みに感嘆の声を上げる。

 

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「すごーい!!一回で成功したよ!?」
「ま、こんなもんだな」

熟練者レベルの鍵をいとも簡単に開錠したばかりのシンリックは、メイとは対照的に事もなげに言う。
ここは盗賊ギルドの本拠地にある訓練室。
その名の通り、盗賊としての様々な技能を鍛えるための場所だ。
先程まではメイがこの宝箱と文字通り格闘していたのだが、手持ちのロックピック全てを折っても結局開錠出来なかった。

 

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周囲には折れたロックピック…17本が散らばっている。
メイが落ち込んでいると、折良く弓の練習をするためにシンリックが訓練室へとやって来た。
そこでメイは、ギルドでも随一の開錠術を誇る彼を捕まえて開錠術の教示を求めたと。
シンリックは大儀そうに「開錠は得意分野だが、それを人に教えるのは苦手だ。盗賊なら習うより盗んでみせろ」と、
一度限りだと念を押した上でこうして目の前で開錠を行ってくれたという次第である。

 

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「でも…盗めったって、今のじゃわかんないよぉ」
「そうか」
シンリックは泣き言を口にするメイに頷くと、的に向けて弓を構える。
メイとしては大いに不満だが、事前に一度限りという約束をしていた以上文句は言えない。

開錠術に限らず、何らかの優れた技能を持つ者がその分野の良き教え手になれるとは限らない。
メイは開錠術はヴェックスから師事を受けてきたが、彼女は今、重要な任務の準備で忙しい。
どの道、ロックピックが全て折れてしまったからこれ以上練習は続けられない。
礼を述べ、訓練室から出て行こうとするメイに弓の練習の手は止めないままシンリックが声をかける。

 

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「お前はなかなか筋がいい。今よりもっと上達するだろう」
「えっ、ホント?どんな風に筋がいい?」

シンリックいつも素っ気ない。
ブリニョルフのように巧みな話術で相手の自信を引き出して上手に操るのは得手ではないが、
それ故にお世辞の類は決して口にしない男だ。
現金な性格のメイは、彼に褒められてすぐに気を良くする。

「その昔…お前が生まれるよりもっと前、先代のギルドマスターが生きていた頃に1人の盗賊がいた。
優れた盗賊だったが、開錠術に関しては私のほうが上手だった。
…が、いつしか彼は私を超えていたよ。
お前のやり方は、当時の彼に少し似ているところがある」
「へぇ…」

いつになく饒舌なシンリックの言葉に耳を傾け、その内容に少なからず驚いた。

 

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「シンリックより開錠がじょーずな人がいたなんて…
ちょっと会ってみたかったなぁ」
「もう既に会っている。メルセルだ」
「えっ!?」
予想外な名前を聞いて、反射的に背後を…執務机がある辺りを振り返る。
しかし訓練室の位置関係上、メイが今いる場所からは見えない。

 

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「あたしとますた~って似てるの?」
「いや…あくまで『筋がいい』って部分だけだ。
今の発言は、他の誰にも、特にメルセルには言わないでくれよな。
きっといい気はしないだろうからな」

 

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「え~?」

どういう意味だろう、と気になる。
とは言え、開錠の練習に取り掛かって少し疲れたしおなかも空いてきた。

 

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何か食べようと、メイは訓練室から出る。
歩きながら、先ほどのシンリックの言葉を頭の中で反芻する。

「筋がいい…って部分で、あたしとますた~が似てる…かぁ」
どういう意味なのか、わかったようなわからないような、メイにはあまりぴんとこない。
同時に、彼の語った「メイが生まれるより前」に思いを馳せる。

 

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「その時のますた~って、どんな感じだったんだろ。
やっぱりその時からあれぐらい歪んでねじ曲がってたのかなぁ?」

そう呟いた時、先ほどシンリックが口にした先代マスターの存在が脳裏を過ぎる。
メイがギルドに加入した…というか、ブリニョルフに拾われた時から既にメルセルがギルドマスターの地位にいた。
この時まで、メイは先代ギルドマスターの存在など全く思い浮かべたことがなかった。
今の今まで気付かずにいたが、メイが知る限りこれまで先代についての話題を耳にしたことがない。
よく考えれば不自然だ。

「…今度ブリニョルフに聞いてみよっかな?」

 

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時刻はとっくに正午を回った、昼下がりという時間帯だろう。
天井から降り注ぐ穏やかな陽光が、人々の生活圏の下層にある盗賊の本拠地を照らす。

「街の奴らと違って、お日様はあたし達にも平等だもんね」

 

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そんなことを呟きながら、ギルドマスターの執務机のほうを見遣る。
特に意味はないが、貯水池に来る度についついしてしまう癖だ。

しかし今はその所有者は不在だ。

 

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「……」

執務机から視線を外し、食料貯蔵棚へと向かう。
その時、石造りの床の上に1枚の手紙が落ちているのが見えた。

 

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封が切られ、こんな風に放って置かれているということは重要書類ではないだろう。

「何だろ?ブリニョルフがまた女の人に貰ったラブレターかな?」
メイはそれを拾い上げて中身を見た。

 

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どうやらメルセルがブリニョルフに宛てた手紙のようだ。

 

「ブリニョルフ

ゴールデングロウ農園の状況は手に負えなくなっています。
誰か事に当たれる人物を探してください。
メイビン・ブラックブライアの監視の目が厳しく、自分は身動きが取れません。
必要ならヴェックスを送ってください。
いずれにしても、即刻解決してもらいたいのです。

メルセル」
普段の彼からは想像も付かない丁寧な文面で、そのように綴っている。

(綺麗な字だなぁ)
漠然とそんなことを考えながら、これをメルセルが書き綴ったという事実に思いを馳せる。
正直、あまり実感が沸かない。
何にせよ、ゴールデングロウ農園についてはもうヴェックスが赴くということで話が纏まったし、
そういう意味ではもうこの手紙の価値はないだろう。

 

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捨てても問題ない、そう判断したメイは手紙をポケットに入れた。

 

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「うん。まぁ、床の上に落ちてた紙屑拾っただけなんだけど。
捨てるのは後でもいいし」

まるで自分自身に弁解するように、わざわざ声に出して言い放った。
そして、今度こそ食料貯蔵棚へと向かう。

 

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