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第15話 「ささやかな日常と小さな宝物」

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「林檎とトマトとどっちにしよっかな~。
…よし、両方食べちゃおっと」
メイは貯水池の端にある食料棚の近くに来て、林檎を1つ手に取り齧り始める。
ラグド・フラゴンにいるヴェケルに頼めば美味しい食事を作ってくれるのだが、もちろん有料だ。
貯水池にも調理用の鍋が置かれ、そして食料棚には定期的に食材が補給されている。
懐が軽い盗賊が自炊している姿をよく見かける。
運が良ければ誰かが作った食事にありつけると企んだのだが、今は誰も調理を行っていない。

 

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「メイ」
呼ばれて振り返ると、外から貯水池に戻ってきたばかりのニルインの姿が見えた。

「ん?ニルイン、どしたの?」
「宿舎で働くスヴァナって子が、どうやらお前に会いたがってるらしい」
「スヴァナ?…あー」誰だっけ、と一瞬思ったがすぐに名前と顔が一致した。
ヘルガから借金を回収する時に、利害が一致して協力してくれたあの少女だ。

 

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「さすがにギルド関係者との繋がりは詳しく口にしなかったけど、彼女が探してるのは多分お前だろうな。
何か心当たりはあるか?」
「んー、あるって言えばあるけど…何の用だろ?」

盗賊ギルドはリフテンの住人から厄介者扱いされ煙たがられている。
しかし、ギルドの中には自分の身元を隠して外では善良な市民のように振る舞い、友人を作る者もいる。

ニルインがまさにそうだ。
その持ち前の気さくな性質と機転の良さでスヴァナとも親しくなったのだろう。
宿屋や宿舎というのは人と情報が集まりやすい場所で、そこで働く者と親しくなっておいても損はない。

彼の言う通り、スヴァナはメイに会いたがっていることを明言はしない筈だ。
彼女の言動の中に、他の者にはわからなくてもギルドメンバーであるニルインにはメイのことを指していると思しき言動があり、
そこからスヴァナの意図するところを推測したのだろう。

 

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「お前、いったいスヴァナに何をしたんだ?
あの子はリフテンの住人とは思えないほど純真ないい子なんだからな、悪の道に引きずり込むなよ」
「ええっ!?なんでそーなっちゃうわけ!?」
「ははは、冗談だよ。
大方、ヘルガへの仕返しを手伝ったとかそんなところだろ?
ヘルガがすんなり借金を返した辺り、スヴァナと共謀して一泡食わせてやったってとこじゃないか?」
「当たり!よくわかったね?」
「ヘルガのあの子への態度は、まぁ控えめに言っても目に余るものがあったからな…
それが最近は傍目でわかるほど改善されたらしいな。
思うに、お前に礼を言いたいとかそんなところじゃないかな」
「そーなんだ。あたし、別にそんなのいいのにな。
ヘルガに一泡吹かせてお金も取り返せたらそれで良かったし」
「念のため、今からでも会いに行ってやれよ」
「んー。じゃあ、ちょっと行ってくる」

 

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ふと、メイは先ほどシンリックとの会話の中に登場した先代ギルドマスターのことを思い出した。

「あ、そーだ。ニルインってさ、ギルドに来てからかなり長いほうだよね?」
「ああ、今となっちゃかなりの古株だな」
「じゃあ、前のマスターのことも知ってる?」

メイがそう問いかけると、ニルインの様子が変わった。
いつもの軽快さは身を潜め、慎重に言葉を選ぶように答える。
「ガルスのことか。ああ、知ってるよ」
「へぇ、ガルスって言うんだ。
その人、今はどこにいるの?盗賊止めちゃったの?」
「…なぁ、メイ。今までブリニョルフに、ガルスについて聞いたことはあるか?」
「ううん、全然」
「そうか。
…きっと、近い内に話してくれる時がくるさ。
俺から言えるのはこれだけだな」
「えっ?」
「悪いな、これからやらなきゃいけないことがあるからまた今度な。
ゴールデングロウ農園の潜入に、俺も参加するんだよ。
お前も早くスヴァナのところに行ってやれよ」

ニルインは一方的に会話を切り上げ、殆ど逃げるようにその場を後にした。
彼らしくない振る舞いに、その場に残されたメイはただ困惑するばかり。
どういうことかはメイにはわからないが、どうやら先代マスターの「ガルス」には何か複雑な事情が付いて回るように感じた。

「…とりあえずスヴァナに会いに行こうかな」
何とか気を取り直し、貯水池から地上へと向かう。

 

 

 

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「一度宿舎に向かおっかなー。
でもなー…」

先日の借金回収の件は、尾びれ背びれをいくつも付けた噂としてたちまち街中に広がった。
必然的に、以前からすこぶる評判の悪かったメイが、その噂話の中で完全な極悪人という立ち位置にされた。
正直言って、あまり宿舎には近寄りたくない。

 

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「メイ!」
その内、街中で偶然会うこともあるかも…そう考えてメイが引き返そうとした時、名前を呼ばれた。

 

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「スヴァナ」
「ああ、よかった。あなたに会いたかったのよ」

 

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人目に付く場所で立ち話もどうかと思い、2人はある邸宅の敷地内へと移動した。
スヴァナは他人の家の敷地、まして立派な屋敷となれば尚のこと、踏み入ることを躊躇ったが、
メイに「知り合いの家だから大丈夫」と押し切られ、渋々彼女に続いた。

 

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「会えて良かったわ。
私、あなたにお礼が言いたかったのよ」
そう言って晴れやかな笑顔を浮かべるスヴァナ。

 

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「別にお礼なんかいらないよ。ヘルガから借金取り立てたかっただけだし」
そう言い終えてから、ブリニョルフだったらこんな時きっと上手く相手に合わせて会話を広げるのだろうなと思った。
そうすることで相手の信頼を得たり、有益な情報を喋らせたりして、今後の盗賊家業に役立てるのだ。
メイには到底真似出来そうにない。

しかしスヴァナは、ぶっきらぼうとも取れるメイの物言いに怒るでもなく、随分と上機嫌な様子で首を横に振る。
「ヘルガったら、あれ以来すっかり大人しくなったわ。
宿舎の仕事も、今までは面倒事は私に押し付けて自分は遊び歩いていたけれど、あの一件以来心を入れ替えたみたい。
私も以前より負担が減ったの。
あなたのお陰よ」
「へ~、良かったね」

スヴァナの報告を聞きながら、メイは少なからず驚いていた。
メイがしたことと言えば、姦通の証拠であるディベラの証をスリ取り、ヘルガに突き付けたぐらいだ。
それぐらいであの気の強い女が、態度を軟化させるだろうか?
やはり彼女が行っていたディベラの魔術というのは、ただの姦通という以上の意味を持つのだろうか。

 

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「これを受け取ってくれるかしら」
そう言ってスヴァナは自分の首にかけていたペンダントを外し、メイに差し出した。

 

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銀色の鎖に、三日月を模った青い宝石を通したペンダントだ。
メイはこれまで、さぞかし高い価値があるに違いないと信じて綺麗な宝石をギルドに持ち帰ったが、
実は二束三文のガラス玉だったということも何度かあった。

そんなメイにはスヴァナが差し出したペンダントの金銭的な値打ちというのはわからないが、
それでも大切にされてきたもの特有の雰囲気は感じ取れた。

 

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「いーよ、ホントに。これ、大事なものなんでしょ?」
「船乗りだった父の形見なの。ずっと父を海の事故から守ってくれたわ」
形見ということは、スヴァナの父は故人なのだろう。
スヴァナの口振りから、彼女の父は海の事故以外で亡くなったようにメイは感じた。
特に興味もないため確認はしないが。

「形見だなんて、だったら尚のこと受け取れないよ」

 

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「あなたに持っていて欲しいのよ、メイ。
きっとそのほうが、役立ててくれると思うの」
「…そーなの?」

このようにして、スヴァナのペンダントはメイが譲り受けることになった。

 

 

 

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(カワイイじゃん)
スヴァナを見送った後、ペンダントを着けた胸元を見下ろしながらメイはそんなことを思った。
受け取れないと拒否したメイだが、よくよく見てみると自分好みの造形だ。

自分も帰ろうとこの敷地内から出て行こうとしたメイだが、ふと足を止めた。
ある広い屋敷…リフトウィールド邸の敷地内に佇みながら、その石造りの立派な屋敷へと視線を向ける。
今、この屋敷内に誰かいるだろうか。
それとも家主は不在のままだろうか。

 

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その時、屋敷内への出入り口が目に付いた。
玄関というわけではなく、勝手口か何かだろう。
つまり、そこまで厳重に施錠されていない可能性もあり、もしかしたらメイ程度の腕でも開錠出来るのではないか。
そんな考えが脳裏を過ぎった。

…しかし、すぐに手持ちのロックピックが1本もないことを思い出す。

 

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「しまった、全部折っちゃったんだ。
またトニリアに売って貰わなきゃなー」

ロックピックは決して安いものではない。
しかも、シンリックのように開錠術に長けた盗賊ならともかく、メイ程度の盗賊にとっては
1本あれば十分というわけにはいかない。
その出費を考えると頭痛を感じずにはいられない。

 

 

 

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「ふぅ。気持ち良かったー」
ギルドに帰り、湯浴みを済ませたばかりのメイは、柔らかな布で髪に付いた水滴を拭き取る。

盗賊ギルドの本拠地であるラグド・フラゴンについて、リフテンの住人からは散々な言われようだ。
ゴミ溜め同然で、とても全うな人間の住む場所ではないというのが多くの住人の認識だろう。
確かにここに来るまでのラットウェイは浮浪者や破落戸の溜まり場となっており、かなり酷い場所だが
本拠地にまで入るとなかなか快適な居住区だとメイは思っている。

 

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寝入る準備を済ませてから、例のメルセルが書いた手紙を広げて読む。

(ホント、綺麗な字だなー)
後で捨てるつもりだと言い聞かせて回収したにも関わらず、結局こうして所持したままだ。

 

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本日の「戦利品」をベッドの側のエンドテーブルに置き、暫し眺めて楽しむ。
どちらも盗賊が挙って追いかけるお宝というわけではないが、自分だけの宝物が増えたようで嬉しくなる。
メイには私物と呼べるものがあまりないから、尚のことである。

 

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(ニルインもゴールデングロウ農園に一緒に行くのかぁ。
ハチの巣を燃やす…とか何とか言ってたから、矢に火を着けて撃つのかな?
あれ、あたしもやってみたことあったけど、すぐに火が消えちゃって上手くいかなかったなー。
ニルインはすごく上手に火が消えないように撃って、ちゃんと当たった瞬間にぱちぱちーって燃えてたっけ)

寝台に横たわりながら、今日のことを振り返る。
折れたロックピック、先代マスターのガルス、酸っぱい林檎、船乗りだったというスヴァナの父親。
様々な情報が、断片的に脳裏に浮かんでは消える。
やがて、思考はリフトウィールド邸へと移る。

(今、あのおうちに誰かいるのかなぁ…中はどーなってるのかな?
……………………)

 

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(そーいえば、ヴェクス達がゴールデングロウ農園に潜入するのっていつだっけ…
多分もうすぐだけど)

ギルドにとっての一大任務に思いを馳せる。
ヴェックスのことだ、自分の腕を過信して準備を怠るようなことはない。
万全の準備で挑み、そしてギルドに成果を持って帰ることは疑いようもない。
メイが今日のようにいつもと変わらぬ平凡な日々を送っている間も、その準備は着々と進んでいる。
メイが関与する隙など全くない。

メイは、今のギルドでの生活に概ね満足はしている。
しかし、時折歯がゆさを感じてしまうことも事実だ。

(ますたーはナギを偵察に向かわせるつもりだったんだっけ…
それがもしあたしだったら、なー…)
いつしかメイの意識は眠りの淵へと沈んで行った。
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寝入ってから小一時間ほど経った頃。

「……イ、…メイ。ねぇ、起きて」

 

 

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「んん、ぅ…」

人の気配と声に、寝入っていた意識が無理矢理引き上げられる。

 

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「んー…あれ、さふぁいあ…もう朝?」
「いいえ。寝ているところ、ごめんなさいね。
デルビンがあなたを呼んでいるわ。今すぐ来て欲しいそうよ」

 

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そう答えるサファイアの顔には緊迫した表情が浮かび、声も常より固い。
何か尋常ならざることが起きているらしい。
メイは直感的にそう感じた。
デルビンが眠っているメイを起こすなど、今まで一度もなかった。
これまで、急ぎの用がある時でもメイが起きて来るのを待ってくれていたものだ。

 

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「デルビンが?」
「ええ、そうよ。
…何でも、ホワイトランの有権者から早馬でギルドへの協力要請があったんですって」
「ゆーけ、ん…?きょーりょくよー…つまり、偉い人がデルビンに助けてって行ってきたの?」
「そういうこと。そしてデルビンは、あなたをその任務に当たらせるつもりよ」

 

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「へぇ、そんなことが…えっ!?」

聞き間違いだろうか、とサファイアをまじまじと見返す。
しかし、彼女の真剣な面持ちを見れば聞き間違いでも冗談の類でもないことは明らかだ。
更に、サファイアは続ける。

「こんなことはもうここ20年ほどなかったそうよ。
この任務が成功すれば、ギルドの風向きも間違いなく上を向く筈だわ」
いつのまにか眠気など完全に吹き飛んでいた。

 

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