第16話 「適任者」

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「あわわわわ!早く行かなきゃ!!」

まだ寝起きで気怠い身体を寝台から起こし、部屋を出る。
寝着のまま人前に出ようとするメイをサファイアは慌てて止めた。

 

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「ちょっと、メイ!せめて上に何か羽織ったら!?」
「へーきへーき!」
と、適当な返事をする。
確かに人前に出るには肌が出すぎた格好だが、ギルドの本拠地から出るわけでもないし、人前と言ってもフラゴンにいるのはデルビンやブリニョルフといったよく知る面々ばかりだ。
特に何の問題もない。

…この時はそう思った。

 

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「デルビン、お待たせ~…って」
「すまないな、眠っているところを起こして。…しかし、いくら急ぎの用とは言え、そんな恰好で部屋から出るのは感心しないな。君だっていつまでも小さな子供とうわけじゃないんだから」

 

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いつになく深刻そうな面持ちのデルビンだったが、それでもメイの出で立ちに気付くと年長者らしい物言いで注意を促した。
メイのほうはと言えば、デルビンの言葉は既に半分も耳に入っていない。
むしろ、身を持って痛感している。

 

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(えっ、嘘…なんでいるの?今日に限って?)

 

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デルビンのすぐ傍らにメルセルの姿を見つけた。
てっきりデルビン達しかいないだろうと思っていたメイは、面喰っておどおどと立ち竦む。

 

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(ど、どーしよ)

途端、こんな格好で立っていることが心許なくなり、着替えるために部屋に引き返したい衝動を覚えた。
しかしそんなことが許される雰囲気でもないが、メイとしてはありがたいことに、すぐに助けが現れた。

 

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「ほら。これを着て」
メイに追いついたサファイアが、背後から服を掛けてくれた。
小声でサファイアに礼を言いつつ、服に袖を通す。

 

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「立ち話も何だ、掛けたまえ」
ギルドマスターが立ったままなのに、果たして下っ端の自分が席に着いていいものなのか判断が付かないメイに、デルビンがそう促した。
デルビンに呼ばれたのはメイだけではなくサファイアもだが、彼女は「私はいいわ」と言って立ったままだ。

2人が聞く体勢になったことを確認すると、デルビンは真剣な様子で話を切り出した。

 

 

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「単刀直入に言おう。ホワイトランの有権者が我々に助力を求めている。
こんなことはもう何年も、いや、ここ20年ほどなかったことだ。
そこで、その任務には君達2人に当たって貰おうと思う」

そう述べるデルビンの表情にも口調には、少しばかり苦々しいものが含まれているようにメイは感じた。

周囲を見れば、ブリニョルフもヴェックスもいない。
メイは、何となくではあったが、またとない美味しい依頼が舞い込んできたにも関わらず、デルビンがあまり乗り気でない理由がわかった気がした。

 

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「任せて。報酬に見合った働きをしてみせるわ」

面白くないものを感じて即答出来ないメイとは逆に、サファイアはすぐに承諾した。
遠回しに、報酬を弾むようにという含みを交えている。

「ああ、もちろんだよサファイア。…それで、メイはどうだ?」

ヴェックスはゴールデングロウ農園への潜入がもう決定しているし、ブリニョルフはブリニョルフでギルドの幹部として日々重要な任務をこなしている。
生死不明のナギは、まだギルドに帰っていない。

新人がギルドに加入することは、昔に比べて随分減ったとメイは聞いている。
入っても使い物になる前に抜けることが多く、落ち目のギルドは常に人手不足状態だ。
おそらくは、今すぐ動ける者が他にいないためにメイとサファイアが選ばれたのだろう。

 

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「…やる」
多少引っ掛かるものもあったが、拒否する理由はない。大きく頷いてみせる。
デルビンは「そうか」と言って頷いた。

まだ彼の口調や表情に陰りを感じたが、メイは今は敢えてそのことには触れず、彼の言葉に耳を傾ける。

 

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「ホワイトランのバトル・ボーン家については知っているな?」
「えっと、その…ごめん、知らないや」

いつもなら即答するところだが、メルセルが近くにいるということで威圧感を覚えてしどろもどろな口調になってしまう。
メイの言葉にデルビンは小さく呻き、こめかみの辺りを押さえている。

「君はもう少し、世事について知ったほうがいいな。
バトルボーン家というのはホワイトランの名家の1つで、帝国の支持者だ。
今回、ギルドに助力を求めているのが、このバトル・ボーン家だ。
手紙によると一刻の猶予もないそうだ。
今すぐホワイトランに行って、家長に会って話を聞いて欲しい」

「うん」
「わかったわ」

メイとサファイアは同時に頷いた。

依頼内容については、デルビンも聞かされていないのだろう。
盗賊ギルドに依頼する辺り、おそらくは法に触れる内容で、途中で手紙を誰かに奪われてもバトル・ボーン家の不利益にはならないよう、当たり障りのない内容のみを伝えたに違いない。

 

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「おそらくはドラゴンズリーチに潜入することになるだろう」

今まで一言も発さずにいたメルセルが唐突に口を開いた。
メイのみならず、サファイアもぎくりとして彼を振り返る。

「どらごんず、りーちって…」

何ですか、と言いかけて慌てて口を噤むメイ。
しかし遅かった。
案の定、メルセルはメイを見下しきった視線を向けてくる。
しかし親切丁寧に説明してやる気はないらしい。

「お前はヴェックスから潜水の手解きを受けたな」
「は、はい」
「お前次第で、今回それが役に立つだろう」
「は、い」

こくこくと頷くメイだが、任務の内容というのが全く見えてこない上に、話が全然見えない。
どこからどう尋ねるべきかと思いあぐねていると、またしてもサファイアが助け船を出してくれた。

 

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「つまり、潜入を行うのがメイの役目で、私はこの子が動きやすいように補佐する…ということでいいのかしら」
「お前は話が早くて助かるよ」

メルセルの言葉に「こいつと違って」という含みを感じて、萎縮してしまう。

 

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「でも、いくら何でも情報が少なすぎるわ。
デルビン、手紙に書かれた内容で把握出来たことだけでも、教えておいて貰えるかしら?
私の勘では、おそらく帝国への背信行為でしょうね。」

「私も君と同じ考えだよ。
手紙にはかなり遠回しに、しかも暈して書いてあったが、相当に警備の厳しい場所へ潜入可能な者が求められているようだよ。それも迅速に、だ。
その場所について明確には書いていないが、メルセルの言った通り、ドラゴンズリーチで間違いないだろう」
「それも、最奥部…まさか首長の私室とかかしら?」
「わからない…が、それもあり得る」

 

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デルビンとサファイアの会話を聞きながら、さすがにメイも事の大きさを改めて実感する。
まさかいきなりこんな重要任務を任されることになろうとは。
本来なら他の者…メイより経験豊富で腕の立つ者に任される筈だった任務が自分に巡って来た。自分が代替であることもどうでもよくなるほど、高揚感を覚える。

 

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「じゃあ、今から行ってきます」
言うが早いか、メイは椅子からさっと立ち上がり、準備に取り掛かるべく私室へと向かう。

 

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「ちょっと、メイ!?」
「いや、待て!まだ話は終わっていない!」

サファイアとデルビンの焦った声が飛んできた。
メイはその場で立ち止まり、そちらへと向き直る。

 

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「え?なになに?」
きょとんとするメイを、デルビンは苦々しい表情で見返す。

 

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「サファイアの言った通り、おそらくこの任務は帝国に背く行為となるだろう」
「あー…うん。そーだね」

何をどうすると「帝国に背く」ことになるのかメイにはわからないが、デルビンとサファイアが言うのだからそうなのだろう。
適当に相槌を打つメイに、デルビンは思わず頭を抱える。
サファイアもその隣で複雑な面持ちをしているが、メイにはその理由がわからない。
その時、今まで傍観していたメルセルが口を開いた。

 

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「つまりはこういうことだ。
バトルボーン家は帝国の支持者であり、お前がヘマをするようなことがあれば即座に切り捨てる。
お前を切り捨てるだけでは終わらず、同時にギルドに対する信用は永遠に失われる。
お前の失態のためにな」

 

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「…ッ…はい」

好機は、大きければ大きいほどにそれに伴う責任も大きい。
ましてやギルドの代表として引き受ける任務となれば、メイ個人の問題ではない。
ここに至ってそのことに気付く。

「また、ギルドのパトロンであるブラックブライア家も帝国との繋がりが強い。
少なくとも、ブリニョルフやバイパーといったノルドの連中さえタロス信仰を捨て去る程度にはその繋がりを尊重しているわけだ」

メルセルの言葉に、メイはブリニョルフ達がこれまで一度も「九大神」という言葉を口にしたことがない事実を思い出す。
これまで全く意識していなかったが、もしかしたらこれはもっと根深い意味のあることなのではないか。
そんな考えが過ぎると同時に、盗賊ギルドにとってのメイビン・ブラックブライアの影響力の大きさを改めて実感する。

メイの思考に被せるように、メルセルが問いかける。

「…ここまで言えば、お前にもどういうことなのかわかるな?」
「えっと…実行犯のあたしは、えっとえっと、単独犯みたいな形で。
“テイコクヘノハイシンコーイ”はあたし1人だけ、みたいな…
失敗したら、ギルドから切り捨てられる…ってことです?」

ぎこちなく言葉を紡ぎながら、おどおどした態度でメルセルを見遣る。
メルセルは言葉を発さず冷ややかに見返すばかりだが、彼の目は、メイの口にした言葉が正解であることを物語っている。

つまり、もし失敗したらその時は…?
メイは、伺うようにデルビンへと視線を映した。
デルビンは一瞬メイを見た後、メルセルを振り返って抗議する。

「メルセル、やはり彼女にこの任務は酷だ。
やはり他の者を当てるべきだろう。
その辺の金持ちの家に忍び込んで金品を失敬してくるのとは訳が違う。
万が一失敗したら、一生牢獄暮らしだぞ」

盗賊というのはギルドに所属していても個人主義の考えの者が多い。
ギルドの仲間が捕縛されても、、あくまで本人の自己責任ということで、他のギルド員が救出に向かうことはあまりない。
しかし、皆無というわけでもなく、時と場合によってはギルド員を救助に差し向けることもある。
今回の場合、ブラックブライア家の手前もあって、もし表沙汰になった場合はギルドが受けた依頼ではなくメイが個人的に行ったこととして処理されるのだろう。
つまりメイが捕まっても、助けは来ないということだ。

この時にはメイにも事の重大さがわかっていたが、しかし別のことのほうが気になった。

 

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「この任務をあたしに任せるのって、デルビンの考えじゃないの?」
「ああ、メルセルの采配だ」
「え……」

それはメイにとっても意外な返答で、思わずメルセルを見遣る。
そして、止せばいいと自分でもいつも思うのに、またしても不要なことを口にしてしまう。

「お気に入りの猫が帰って来ないから、その代わりってわけです?」
「その時の状況を見て最良の判断を下すに過ぎない。
今回のこの依頼には、サファイアの補佐付きという前提だが、お前が最も適していると断したまでだ。
お前はこちらの指示通りに従っていればいい」

メイに対して期待を込めたり鼓舞することもなく、素っ気なく言い放つメルセル。
メイは、彼が口にした「最も適している」という言葉を脳裏で反芻する。

不安感や恐怖心もあったが、しかしメイの心は最初から決まっていた。
更に、この采配がメルセルによるものだということ、彼の「最も適している」という言葉がメイの決意を後押しして、今や全く揺るがない。

 

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「あのさー、デルビン」

デルビンに向き直り、抗議の言葉を口にする。

 

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「なんであたしが失敗するって決め付けちゃってるわけ?」

 

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「大丈夫だよ、ちゃーんとバレないようにさっさと終わらせるからさ。
ドロ船に乗った気持ちで待っててよ」

 

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「うむ…ああ、そうだな。
そういうところが実は不安なんだが。それこそドロ船にでも乗っているかのようでな」
「え?」
「いや…わかった、気を付けて行って来い。
サファイア、メイのことを頼んだぞ」
「わかったわ」
「じゃ、行って来るー」

 

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「どけ」
「あ、はいっ」

短く、しかし高圧的に言い放たれて、メイは端に寄る。
メルセルはそれ以上言葉をかけることなく、この場を去ろうとしている。

 

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(…何か言ってくれてもいいんじゃないです?ますた~…)

その後ろ姿を眺めながら、不満げに唇を尖らせてしまう。

 

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「…その内、あたしのことも無視出来なくなります」

誰にも聞こえないぐらいの小声で呟き、準備に取り掛かる。

 

 

 

 

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それから1時間足らずの内に、メイとサファイアとはリフテンの城門の外の馬屋前にいた。

 

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身体に不釣り合いに大きな背嚢には、今回の任務に役立つであろう備えが詰まっている。
重量もかなりあるが、任務遂行のためと思えばあまり苦にならない。
全然ということはないが。

(うう、重い…でも、サファイアのお陰で持ち運びが楽になりそ)

 

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彼女達の側には一目で駿馬とわかる馬が2頭。
そして、少し離れた場所からレッドガードの青年が不安そうにその様子を眺めている。

 

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そんな青年に、サファイアは晴れやかな笑顔を向ける。

「じゃあ、シャドル。この子達借りるわね」
「ああ。…なぁ、くれぐれも傷付けたりしないよう頼んだぞ」
「わかってるわよ」

シャドルと呼ばれた青年はここリフテンの馬屋で働いているのだが、サファイアに借金をして、それを返済することが出来ず困窮していた。
そんな彼に対して、この早朝にサファイアは「借金をチャラにしてあげるからとびっきりの馬を2頭貸しなさい」と持ち掛けた。
シャドルとては愛情を持って育てている馬を、綺麗な外見とは裏腹に腹黒く悪どいサファイアと、これまたリフテンで評判最悪のコソ泥であるメイに預けることには非常に強い抵抗感があった。
しかし、利息で膨れ上がった借金を返済する手立てもないために渋々承諾したという次第だ。

尤も、彼が借金で首が回らなくなったのも、実はサファイアとメイとで手回ししたせいだ。

 

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「じゃあ行きましょう!」
「しゅっぱーつ!!」