17話 「子犬と小娘」

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リフテンを出発し、ホンリッヒ湖を南に回る形でホワイトランを目指す。
メイがリフテンに帰還した時とは別の道を通ることに決まった。

このホンリッヒ湖で、ヴェックスから潜水の指導を受けた。
一言に盗賊稼業と言ってもそのやり口は実に様々である。
ヴェックスはメイに「いいか、賢い盗賊ってのはな、まず自分を知ることが重要だ。そして自分の長所がどこかを見極めて、それを伸ばすんだよ」と教えてくれた。

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件のゴールデングロウ農園は、ホンリッヒ湖の中央の小島に建っている。
その前を通りかかる時、メイは僅かに顔をそちらへと向けた。

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ブリニョルフから聞いた通り、物々しいほどの警戒態勢が敷かれている。
しかし、この農園も遠からず陥落するだろう。

そしてそれを行うのはもちろんヴェックスだ。

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———…やはりお前が一番信頼出来るよ、ヴェックス。

不意に、以前にブリニョルフが口にした言葉が脳裏に蘇った。
ヴェックスが一番、と誰にも聞こえない声で反芻しながら、小さな痛みを伴う羨望を覚えた。

ヴェックスは自他共に認める凄腕の盗賊で、それにしなやかな強さを持っている。
いつか自分もああなりたい、そう思う反面でどこまでも遠く感じてもいる。

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(まず、ホワイトランでのお仕事終わらせなきゃね。依頼主がびっくりするぐらい、完璧かつじん…くそ?にこなすもんね)

雑念を無理矢理振り払いながら、馬を駆りホワイトランを目指す。
本来ならば、おそらくはメイではない誰か、ギルドでの信頼性の高い者に任されていた筈の任務。
「棚からスイートロール」のようにメイに転がり込んできたとは言え、好機には変わりがない。

 

 

 

メイとサファイアがリフテンを発って暫くしてからのこと。

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入れ替わるように、ブリニョルフがリフテンへと帰還した。
商人の身なりのまま、疲れの滲んだ足取りでギルドへの秘密通路がある墓地へと向かう。

この数日、碌に睡眠も取らぬままに様々な場所を飛び回って来た。
ギルドにはブリニョルフの他にも優秀な盗賊はいるが、盗術のみがギルドを支えているわけではない。
構成員が盗賊としての腕を振るうにも、それなりの舞台が必要だ。
各地から情報を収集し、ギルドの力を必要としている顧客候補を探し出し、舞台を選別するためには、盗賊の技能とはまた別の才覚が必要だ。
人前に姿を晒し、正体を隠しながら人々と接触し、それでいて盗賊としての感覚を研ぎ澄ませて必要な情報を得る。
そういった才覚を持つ者はギルドにもそう多くはない。

(さすがに今回はきつかった…が、ここ最近にしてはいい手応えだ)

疲弊しているが、まだ纏まった休息を取るわけにはいかない。
メルセルに報告が終わり次第、ブリニョルフ自ら動く必要がある。
ギルドマスターにして、長年の友でもある彼を思い浮かべながら、口の端を釣り上げて笑みを浮かべる。

「お前は大した奴だよ。
25年間、ほぼ休みなしでやって来て、一度も疲れた顔なんか見せたことないんだからな」
半ば無意識の内にそう呟いた時、25年前のあの忌まわしい出来事が脳裏に蘇った。
まるでギルドからあらゆる幸運を奪い去った象徴のような女が、暗青色の顔に嘲笑を浮かべてブリニョルフを見下ろしている。

「…ッ」
疲れているからだ、と自分に言い聞かせてその幻影を脳裏から振り払った。

 

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墓地と言えば陰気で寒々しい場所を想像してしまうが、ここリフテンにある墓地は位置関係上直射しない程度に陽光が注ぎ、穏やかな陽だまりとなっている。
死者が眠る場所に咲くと言われるベラドンナやデスベルの他、ラベンダーやリュウノシタまで花を咲かせ、墓地に似つかわしくない牧歌的とも言える雰囲気だ。
その雰囲気に誘われ、野良犬が陽光の中で寛いでいるとなれば尚のこと。

しかし、街の住民は必要に迫られない限りはこの場所に近付こうとはしない。
何故なら、この墓地の奥から石が動くような重い音が響いたり、人影が見えたかと思ったら消えたり、といった噂が囁かれているからだ。
興味本位に墓地に踏み入れた者が、発狂して逃げるようにリフテンを後にしたという噂もあり、ここに来ると何か「見てはいけないもの」を見てしまうかもしれないと恐れられている。

 

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しかし、それらの噂は半分事実で半分は全くの嘘。
そのことを知っているブリニョルフは、何の躊躇もなく墓地へと足を踏み入れる。
知っているどころか、噂話に意図的に尾びれ背びれを付けて流している張本人である。
住人に目撃されたという人影は、気配を隠し損ねたギルドの構成員だ。
ギルドへの入り口を見つけたところで、一般人が開錠することは容易くはないが、関係のない者を近付けないに越したことはない。

 

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「わふ!」

ブリニョルフの姿を見つけると、今まで陽だまりで微睡んでいた犬が顔を上げ、千切れんばかりに尻尾を振りながら駆け寄って来る。

 

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「ああ、俺が留守の間もいい子にしてたか?
…そうかそうか、不審者から勇敢にギルドを守ってくれたんだな。
まぁもっとも、あの雌ライオンには賢く勇敢な番犬よりもオバケの噂のほうが効果覿面のようだがな。
凶暴なトロールに臆さず立ち向かうような気の強い女が、いるかどうかもわからんオバケを怖がるとは理解しがたい話だ…っと」

ブリニョルフが黒い犬に話かけていると、足元に別の犬が寄って来た。
まだほんの子犬で、金茶の毛並みをしている。

 

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「お?見かけない奴だな。新入りか?」

その子犬は、ブリニョルフに興味を持ちながらも警戒を抱きつつ見上げて来る。
雌犬だろうか、大きな丸い目が特徴的なかわいらしい顔立ちをしている。
毛並みの色といい、顔立ちといい、その子犬はブリニョルフにメイを連想させた。

「お前、あの小娘に似ているな。
そうか、あいつがギルドに来たのは丁度今ぐらいの季節だったかねぇ」

今から6年前に、ブリニョルフはメイをギルドへと連れ帰った。
もう6年と言うべきか、それともまだたったの6年と言うべきか。
少なくとも、15歳のメイにとっては長い期間だっただろう。

ブリニョルフは6年前のあの日を思い返す。

 

 

 

 

今から6年前…

 

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「く…」

 

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撒いたつもりが逆に追い詰められた。
小娘がそのことに気付いたのは、埠頭の袋小路に突き当たってからのこと。
唯一逃げられそうな場所と言えば、小娘から見て右側に広がる海だが、水は得意ではないらしく飛び込むのは躊躇している。

 

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そんな小娘に、薬売りに扮したブリニョルフは緩やかな足取りで近付いて行く。
なるべく怖がらせないようにという配慮だが、上手くいっているとは言い難い。
もっとも、小娘としては先ほど売り上げをちょろまかされた薬売りが追って来たと思っているのだから、酷い目に遭わされると思うのは無理もない。

 

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「俺のポケットから小銭をちょろまかすとは、なかなかにいい腕をしているな。小娘よ。
それに、いざという時の逃走経路も考えていたと見える。
子供しか通れないような場所に、予め検討を付けておいたのか?
ただの薬売りならお前に追い付くことは出来なかったろうな」

自分がただの薬売りでないことを仄めかす言葉を交えながら、小娘に語り掛ける。

 

 

 

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